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普通の冒険者、グリフォンを食らう

 ロゼに連れてこられたのは、ウィルたちが拠点にしている宿屋と兼用になっている酒場だった。

「おっ、今日の主役の登場だ」

「待ってたぜ。ウィルの旦那」

「町を救ってくれた英雄に乾杯だ!」


 ウィルが顔を覗かせると、中にいた冒険者たちが一斉に手にしたジョッキを掲げて、今回のクエストの一番の功労者を歓迎する。


「さあ、リーダー」


 想定していなかった歓迎ぶりを見て呆気にとられるウィルに、隣に立つロゼが背中を叩いて奥のテーブルを指差す。


「あっちで皆が待ってるから行こうぜ」

「わかった」


 ロゼに導かれるままに奥へ進むと、その度にウィルは冒険者たちから一声かけられ、乾杯を求められる。


「……まるで人気者みたいだ」

「まるでじゃなくて実際に人気者だ。今日ぐらいは羽目を外したって誰も怒らないぜ」

「ハハハ、考えておくよ」


 そんな気はサラサラない返事をしながら、ウィルはロウガとメイプルが待つテーブルに着く。



「お待たせしました」

「うむ、報告ご苦労」


 ロウガは鷹揚に頷くと、ウィルにワインが並々注がれたジョッキを差し出す。


「ほれ、まずは乾杯といこうじゃないか」

「ありがとうございます」


 ウィルは仲間たちとジョッキをぶつけ合うと、中身を一気の飲み干す。


「……ぷはぁ、生き返る」

「うむうむ、今追加の肉が来るから、もう少し待つがよいぞ」


 既に注文は終えていることを伝えたロウガは、テーブルに肘をついてウィルを見据える。


「してウィルよ。初めての大規模討伐クエストはどうじゃった?」

「あっ、はい……そうですね」


 ウィルはジョッキを脇に退けると、居住まいを正してロウガに向き直る。


「とても勉強になりました。それと、人を扱うことの難しさも」

「じゃな、ワシも小僧共の暴走にはいささか肝を冷やしたぞ」


 そう言ってロウガはズラリと並んだ牙を見せて笑う。


「だが、それを含めても、初めての指揮にしては中々上出来じゃったぞ」

「ありがとうございます」

「ただし!」


 褒めた後は説教の時間と謂わんばかりに、ロウガはウィルを鋭く睨む。


「自ら囮を買って出た後、決着を急いでピンチを招いたのは減点じゃ。タンクは最悪武器は不要、攻撃が通らなかった時点で、武器は躊躇なく捨てるぐらいの気概を持つように」

「わかりました」


 ロウガの指摘に、ウィルは素直に頷いて言われたことをメモしていく。



「ああっ……ま~た、説教が始まったよ」

「ハハハ、まあ、いつものことですから」


 大きなクエストをこなした後に行われるウィルたちの反省会に、ロゼとメイプルは呆れたように笑う。


「とりあえず、あたしたちはあたしたちで楽しもうぜ」

「いいですね。せっかくですから、これをいただきましょうか?」


 そう言ってメイプルは、酒場に来る前に買っておいたとっておきを取り出す。


「リンゴのコブラ―です。おいしそうな屋台が出ていたので、買っちゃいました」

「それは素晴らしいですわ」


 すると、メイプルとロゼの間から白い手がスッと伸びて来て、黄金色にこんがり焼かれた焼き菓子を手に取ると、ためらいなく口に放り投げる。


「……うん、サクサクしてとてもおいしいですわ。煮リンゴの甘みもとっても爽やかで、いくらでも食べられそうですわね」

「あっ、おい! ったく、手癖の悪いエルフだぜ」


 口の端に付いた破片をペロリと舐めながら席に着くリーリエに呆れながら、ロゼも焼き菓子を口にする。


「ああ、疲れた体に甘いものが染みるな……思わず蕩けそうになっちまうぜ」

「ですね。いけないと思っても、ついつい買っちゃうんですよ」

「フフッ、甘いものの誘惑に負けない女子がいないわけありませんわ」


 女性陣たちは顔を見合わせて笑い合うと、残った焼き菓子を食べていく。


 するとそこへ、


「へい、追加の肉お待ち!」


 威勢のいいかけ声と共に、ウィルの前にジュージューと食欲のそそる音を立てる巨大な肉の塊が置かれる。


「おおっ、凄い……」


 鉄板の上に乗った自分の顔より大きな分厚い肉の塊を見て、ウィルの目がキラキラと輝き出す。


「こ、こんな分厚い肉……本当にいいんですか?」

「勿論だ。既にグリフォンの上半身を食べたって聞いたからな。こっちは下半身、獅子の肉を塩とコショウだけのシンプルな味付けで焼いた一品だ」

「へぇ……身質が全然違うんですね」


 串に刺さった肉がプリプリとした柔らかな身質だったのに対し、こちらはきめ細かな油が乗った引き締まった身質をしている。


「これは食べ応えがありそうだ」

「だろ? ウチの自慢の石窯で中までしっかり火は通してあるから、安心してかぶり付いてくれ」

「わかりました」


 とはいえ、流石に肉が大き過ぎてかぶり付くことはできないと、ウィルはナイフを手にして肉へと走らせる。


「さ、流石にちょっと硬いか」


 空中でグリフォンの蹴りを何度も受けたからわかる筋肉質な身質に、やや苦戦しながら肉を切り分けたウィルは、大きく口を開けて肉を頬張る。


「おっ!」


 一口食べたウィルは、目を大きく見開いて何度も頷く。


「…………」


 肉が繊維質で硬いからか、ゆっくり咀嚼(そしゃく)してから飲みこんだウィルは、店主に向かって親指を立てる。


「これは……めちゃくちゃうまいですね」

「どうだ。凄いだろ?」

「はい、噛めば噛むほど中からどんどん肉汁が溢れて来て、肉そのものの旨味がとても強いですね。後、肉をこれだけ分厚く切ってある理由がわかりました」


 そう言ってウィルは、フォークで肉の断面を軽く押してみると、繊維質の肉の隙間から肉が次々と溢れ出てくる。


「これだけの厚さがあるから、たっぷりの肉汁が味わえるんですね」

「そういうこった。単純に見えるけど、塩とコショウの塩梅も大事なんだぜ」

「わかります。塩が少ないと肉汁が漏れてしまうし、多いとしょっぱくなる。肉を焼くのって簡単なようで、とっても奥が深いんですよね」

「おおっ!? そう言ってもらえるとは……流石は普段から料理しているだけあるな」


 店主は感極まったように鼻をすすると、白い歯を見せてニコリと笑う。


「今、兄ちゃんたちのためにとっておきの肉を焼いているから、それを食べて待っていてくれ」

「えっ、まだあるのですか?」

「あるぜ、むしろそっちがメインディッシュだからよ。楽しみにしておいてくれ」


 ウィルの言動にやる気が出たのか、店主は腕をグルグル回しながら弾むような足取りで厨房へと消えていく。


「……こ、こんなに肉があるのに、まだ次があるのか?」

「何、皆で食べればすぐじゃろ」


 ロウガはウィルの前にある鉄板を引き寄せると、豪快に切り取って大口を開けてかぶり付く。


「ふむふむ……うむ、うまい!」


 ズラリと並んだ牙を使ってあっという間に最初に肉を食べたロウガは、すぐさま次へと取りかかろうとする。


「あっ、ロウガ。何自分だけ先に食ってんだよ!」

「そうですわ。ウィルはともかく、あなたはわたくしたちにもしっかり分けなさい」

「わ、私も食べたいです!」


 すると、それを見た女性陣たちが自分たちにもよこせと次々と手を伸ばしてくる。


「待った。俺が均等に分けるよ」


 こういう時は自分が出るべきだとよくわかっているウィルは、ナイフを手に巨大な肉の塊を仲間たちのために切り分けていった。

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