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普通の冒険者と巨人の少女のちょっと微妙な関係

 ウィルたちが通りに出ると、そこでは既に宴会が始まっていた。


「さあ、今日は町を上げての祭りだ!」

「肉も酒も、全て無料の大盤振る舞いだ。どいつも遠慮なく食べて飲んでくれ!」

「グリフォンの肉が食いたい奴はこっちに並んでくれ! 上半身と下半身で味が違うから、ぜひ食べ比べて見てくれよな!」


 店内はどこも満席、それでも収まり切れなかった人が通りに机と椅子を並べ、それぞれが好きに酒を飲み、肉を食らっている姿が見て取れる。


「……めちゃくちゃ賑わっているな」

「無料と聞いたら、部屋にこもっていた連中も揃って出て来たからな。全く、調子のいい奴等だぜ」


 口調こそ乱暴だが、ロゼの町の人を見る目はとても穏やかだった。


 今朝方までグリフォンの襲撃に怯え、絶望していた町の人たちの姿はそこにはない。

 平穏な日々が戻って来たこと、これで怯えて過ごす必要がなくなったことに誰もが安堵し、笑顔になっていた。


「あの顔が見れただけで、頑張った甲斐があったよな」

「そうだね」


 ウィルはしみじみと頷くと、隣のロゼに向き直る。


「ロゼ、ありがとう」

「な、何だよ急に……」


 急に礼を言われてあたふたするロゼに、ウィルは微笑を浮かべて話す。


「大規模討伐クエストに参加しようって言ってくれたことだよ。俺たちが参加しなくても結果は変わらなかったかもだけど、こんな満ち足りた気持ちにはなれなかったよ」

「ヘヘッ、そうか」


 ロゼは白い歯を見せてニッコリ笑うと、ウィルの背中をバシバシと激しく叩く。


「リーダーなら絶対にやれると信じてたからさ。期待通りの活躍、カッコよかったぜ」

「ハハハ、ありがとう……イタタ」

「流石はあたしが見込んだ男だ。思わず惚れ直しちまったし、これで故郷に良い報告ができそうだぜ」

「そ、それはどうも……って、えっ?」


 何やら聞き捨てならない言葉を聞いたウィルは、ロゼに思わず聞き返す。


「なあ、ロゼ。故郷に良い報告ができるってなんだ?」

「はえ?」

「いや、聞き間違いかと思ったけど、何やら気になる単語が出て来たからさ」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まるロゼに、ウィルは確認のためにもう一度尋ねる。


「俺のことを褒めてくれるのは嬉しいけど、そこでどうしてロゼの故郷が出て来るんだ?」

「あ、あうあう……そ、そのだな」


 ロゼは顔を赤くさせたり、青くさせたりを繰り返しながらどうにか説明しようとする。


「その……実家から連絡があってな……」

「実家って……確か、ロゼの家ってバーバリアンの中でもかなり有力者の家だったよな?」

「あ、ああ……」


 実家のことを問われたロゼは、申し訳なさそうに小さく頷く。


「それで、実家から婿探しの方はどうなっているかをだな? しつこく聞かれてその……つい勢いで……言っちまったんだよ」

「それって……」


 ロゼの言いたいことを何となく察したウィルは、驚いた顔で指をもじもじさせている彼女を見る。


 バーバリアンらしからぬしおらしい姿のロゼは、普段とのギャップも相まって何だか非常に可愛らしく見えて来る。


「その、リーダー……あのな」


 顔を真っ赤にさせたロゼが、意を決したように顔を上げる。


「リーダーさえよければあたしに……」

「何をしてますの?」

「「――っ!?」」


 すぐ脇からいきなり声をかけられ、ウィルとロゼは弾かれたように互いに距離を取る。


「全く、ウィルを呼びに行ったのに中々戻らないから何をしているのかと思えば……」


 そこには両手にこんがり焼けた肉が刺さった串を手にしたリーリエが、三白眼で二人を睨む。


「わたくしたちを差し置いて、ロゼ一人だけウィルの料理を食べようだなんて……」

「……えっ?」


 何だか話が嚙み合わないことに、ロゼは冷静になってリーリエに尋ねる。


「リーリエ、もしかしてさっきの話、聞いてなかったのか?」

「聞いてましたわよ。エルフの耳を舐めるんじゃありませんわ」


 リーリエは長耳を指差して得意げに薄い胸を張る。


「ウィルさえよければあたしに料理を作ってくれ。そう言おうとしたんでしょうけど、神が許しても、このわたくしの目が黒い内はそんな抜け駆け許しませんわよ」

「あ、ああ……そうだな」


 どうやら肝心のところを聞かれてなかったと、ロゼは心の中で安堵しながらリーリエに向かって手を合わせる。


「悪い、ちょっと魔が差しただけだからよ。だってよ、グリフォンがマジでうまくてよ」

「確かに……ロウガが夢中になるのも頷けますわね」


 リーリエは左手に持った串に刺さった肉を一つ器用に食べると、右手の串をウィルに差し出す。


「ほら、ウィルもご賞味なさい。こっちいはグリフォンの上半身、鳥の部分の肉ですわ」

「あ、ありがとうございます」


 色々と気になることはあるが、ウィルは勧められるままにこんがり焼けたおいしそうな肉にかぶりつく。


「――っ!? ほ、ほっとっと……」


 一口(かじ)ると同時に溢れ出してきた肉汁が零れないように手で支えながら、ウィルは顔を大きく前後に動かしてグリフォンの肉を飲み込む。


「す、凄い……こんなにうまい鶏肉、初めて食べた」

「ええ、味の濃さもさることながら、滴る油のおいしさも量もとんでもなく美味ですわね」


 指に付いた油を舐めとったリーリエは、ウィルとロゼに向かって優雅に笑いかける。


「さあ、ロウガもメイプルも待っていますから、早く宴の席に向かいますわよ」

「ああ、そうだな」


 いつもの調子を取り戻したロゼは、ウィルに向かって笑顔で手を差し伸べる。


「リーダー、行こうぜ。今日はたらふく飯を食おうぜ」

「あ、ああ……そうだね」


 ロゼから先ほどの話について言及されなかった以上、ウィルも忘れることにして彼女の手を取る。


「せっかくのお祝いだ。心ゆくまで楽しもう」

「ああ、みんなで一緒にな」


 そうしてウィルとロゼは、何事もなかったかのように肩を並べて残る二人の仲間がいる酒場へと向かう。



 ※


「……やれやれですわね」


 小さくなっていく前衛二人の背中を見ながら、リーリエは小さくかぶりを振る。


「家のためだか知りませんが、あまりウィルを困らせないでいただきたいものですわ」


 実は二人のやり取りをしっかり聞いていたリーリエは、わざと割って話をうやむやにしたのだった。


「わたくしはまだまだ今の関係を楽しみたいの……この、宴のような日々をね」


 歌うように独り言を言って、リーリエも仲間たちの待つ酒場へと向かっていった。

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