普通の冒険者、クエスト完了を報告する
「おおっ、こいつは……」
スモークウッドの町に戻って来た冒険者たちを入り口まで出迎えたギルド長は、荷車に乗せられてグリフォンの死骸と、彼等の顔を見渡して嬉しそうに相貌を細める。
「思ったより早く戻って来たと思ったが、きっかりグリフォンの奴を倒してきたんだな。しかも、全員無事とは実にめでたい」
大規模討伐クエストに参加した冒険者全員の顔と名前を把握しているギルド長は、嬉しそうに何度も頷くと、戻って来た者一人一人と握手を交わし、労いの言葉をかけていく。
「おおっ、ウィル!」
最後尾でロウガと一緒に戻ったウィルを見たギルド長は、満面の笑みを浮かべて彼を抱き寄せ、激しく背を叩く。
「難しい仕事だったがよくやり遂げてくれたな。その姿を見れば、大変な死闘だったことは容易に想像がつく」
「ハハッ、ありがとうございます」
簡単には洗い流してきたが、それでもウィルの服や鎧にはグリフォンの返り血の跡が見て取れる。
「グリフォンに止めを刺したのは、君だな?」
「はい、逃げようとした奴を追跡できたのが俺だけだったので……」
「なるほど……」
そう言われてギルド長は、返り血で汚れているのがウィル一人だけなのに気付く。
「ほ、本当に、一人で倒したのか?」
「最後だけです。倒せたのは皆さんの協力もあってこそです。決して俺一人だけが活躍したわけじゃないです」
「そうか……」
ギルド長はウィルの目を見て小さく頷く。
「では、ウィル。疲れているところ悪いが君から報告を聞かせてもらっていいか? これはラストアタックを決めた者の義務でもあるからな」
「わかりました」
頷いたウィルは、ギルド長に連れられて冒険者ギルドへと向かう。
その途中、
「あっ……」
何かを思い出して足を止めたウィルは、ギルド長の背中に声をかける。
「あの、ギルド長。グリフォンの解体のことなのですが……」
「心配するな。事前にロウガ殿から依頼を受けてある」
ギルド長は振り返ってニヤリと笑うと、自分の背後を親指で指差す。
「ほれ、町の腕利きが自慢の包丁を手にやって来たぞ」
「えっ?」
そう言われてウィルがギルド長の背後へと目を向けると、そこには世話になっている宿屋兼酒場の店主を先頭に、筋骨隆々の男たちがいた。
「この町の酒場で働く野郎たちだ」
「ええ、知ってます」
ウィルが頷くと、大小様々な包丁を手にしている男たちの中から、酒場の店主が禿頭をぴしゃりと叩いて快活に笑いながら話しかけてくる。
「おう、兄ちゃん。大活躍だったみたいだな」
「たまたまですよ。それより皆さんがグリフォンの解体に?」
「おうよ。グリフォン肉の料理の経験こそあれ、解体なんて経験したことのある奴の方が少ないが……何、肉のことなら任せてくれ」
酒場の店主の言葉に、後ろの男たちが自信をのぞかせるように頷く。
「町を救ってくれたお礼に、最高の肉料理をご馳走するぜ」
「今夜は町を上げての大宴会だ。存分に楽しんでくれよな」
「聞いたところ兄ちゃんも料理を作るんだろ?」
「よければ解体した肉の一部を渡すから、何か一品作ってくれよ」
店主たちはウィルに次々と感謝の声を投げかけ、グリフォンへと向かっていく。
「というわけだ。彼等はこの町の荒くれ共も舌を巻く肉のエキスパートだから、安心して任せてくれ」
「わかりました」
酒場の店主のかけ声で、あっという間にグリフォンの首を落としているのを見たウィルは、何も心配する必要はなさそうだと改めてギルド長に向き直る。
「これは、今日の晩御飯が楽しみですね」
「ああ、飛び切りの酒を飲むためにも、報告は簡潔に頼むぞ」
「勿論です」
そう言って頷くウィルの顔は、強敵を倒したひとかどの冒険者というより、未知の料理に挑みたいと願う料理人の顔になっていた。
※
グリフォン討伐の報告を終えると、空がもう茜色に染まっていた。
「はぁ……疲れた」
「おう、リーダー。お疲れ」
冒険者ギルドを出たところで嘆息するウィルに、ロゼが労いの言葉をかけながら革袋を投げる。
「酒場からかっさらってきたワインだ。飲むだろ?」
「あ、ああ、助かるよ」
たくさん喋って喉も乾いていたウィルは、栓を抜いて革袋の中身を煽る。
「……ぷはぁ! うまい!」
「ワインを命の水とはよく言ったものだよな」
「ああ、全くだ」
再び革袋を煽って喉を潤したウィルは、口元を拭いながらロゼに返す。
「ありがとう。生き返ったよ」
「そいつは何より……どれ」
ロゼはウィルの残したワインを一気の飲み干すと、豪快に口を拭う。
「うむ、いい酒だ」
「そういえばロゼ、この酒は一体どうしたんだ?」
ウィルはロゼが手にしている革袋が、自分たちのものでないことに気付いて彼女に質問する。
「まさか、もう大規模討伐クエストの報酬が出たのか?」
「いや、クエスト報告が終わってないのに、金が支払われるわけないだろう」
「だよな……」
その報告は、これからウィル以外のパーティーのリーダーが行い、全員の証言に齟齬がなかったところでようやく支払われる。
これは、今回の大規模討伐クエストの難易度が非常に高く、支払われる報酬の額も大きいので、冒険者ギルドとしても慎重に審査するのであった。
「じゃあ、その酒は……もしかして?」
自分を労うためだけに革袋から買ってくれたのか?
そんなことを思うウィルに、ロゼは違うと顔の前で手を振って種明かしをする。
「この酒は酒場のあちこちで配られている無料の酒だよ」
「えっ、本当に?」
料理店の店主から今日の夕飯の代金は気にしないでいいと言われていたが、料理だけじゃなく酒も無料で振るわれるのか?
そんな疑問に、ロゼはニヤリと笑って顎で酒場が並ぶエリアを示す。
「話すより、実際に見た方が早いだろ」
「うん、そうだね」
激闘からの報告任務もあり、先ほどから空腹が限界近いのを自覚しているウィルは、一刻も早く腹を満たすためにロゼと一緒に、賑やかな通りへと向かっていった。




