普通の冒険者、若手の失敗を羨む
負傷者や死者が出た時のために持ってきた荷車に、最低限の血抜きだけ行ったグリフォンの死体を乗せ、ありったけの氷の魔法で冷やしながら冒険者たちはスモークウッドの町目指して走る。
「ど、どうして俺たちが荷車を引かなきゃいけないんだ……」
「口を動かしている暇がある……なら、早く……足を動かせよ」
「はぁ……はぁ……つ、疲れた」
文句を言いながら荷車を引くのは、自分が英雄になれると調子に乗ってグリフォンに火球を放った三人の魔法使いだった。
「あ、あの……ちゃんと皆さん、支えてくれてるんですよね?」
「何言ってんだ。ちゃんと支えてやってるし、何なら押すのも手伝ってるよ」
思わず振り返る魔法使いの一人に、最後尾でグリフォンの死体を支えているロゼが声を張り上げる。
「お前たちのお陰でクエストが失敗しかけたんだからな。これくらいの肉体労働で許してやるんだから、感謝しろよな」
「そうだぞ。本来なら全員に酒を奢るところを、荷物運びだけで勘弁してやるんだからな」
「まだ喋る余裕があるなら、押すのを止めるがどうする?」
「すみません、すみませんでした!」
魔法の不意打ちによる被害に遭いかけた冒険者たちから次々と問い詰められ、文句を言った魔法使いは観念したように荷車を引く仕事に戻る。
「うぅ……次は絶対にこんな失敗はしないんだからな」
そんなことを愚痴る魔法使いを見て、周りの冒険者たちは揃って肩を竦めた。
※
「……あの人、絶対に同じ過ちを繰り返しますね」
荷車のさらに後ろで後方警戒のために展開している部隊にいるメイプルが、魔法使いの愚痴を聞いて呆れたように嘆息する。
「兄さん、あの人たちにも均等に報酬が支払われるって本当ですか?」
「払われるよ。当然だろ」
憮然とするメイプルとは対照的に、ウィルは三人の魔法使いを見て微笑を浮かべる。
「大規模討伐クエストでは、どれだけ貢献したかなんて関係ないからね。新人もベテランも支払われる報酬は同じだよ」
「もう、兄さんはお人好しが過ぎます」
一番の功労者で、最も苦労したウィルがそう断じるのであれば、メイプルには反論する余地はない。
「兄さんがお人好しなのはいつものことですけど……どうしてあの人たちを見て嬉しそうにしているのですか?」
「ん? あ、ああ……羨ましいって思ってね」
「羨ましい? あの人たちが?」
訳が分からないと怪訝な表情をするメイプルに、ウィルは三人の魔法使いに付いて話す。
「彼等は今日、大きな失敗をした。だけど、大きな事故もなく、ちょっとした罰を受けるだけで済んだ。これって実は凄いことなんだよ」
冒険者という職業は、常に死と隣り合わせだ。
たった一つのミス、間違いが取り返しのつかない事故を起こし、自分が……仲間が死んでしまうことも少なくない。
だからクエストに挑むときは、慎重に慎重を重ねて行動するのが当然だ。
「だけど、全く失敗しないというのも危ういんだ。驕りは油断を生み、目を曇らせるからね」
「だから失敗は、できるうちにたくさんしておいた方がいいのじゃよ」
いつの間にか二人の後ろに現れたロウガが、ウィルの言葉を引き継ぐ。
「人は失敗からしか成長できないものじゃ。故に成長とは、失敗の数で決まるとも言えるのじゃ」
「ううっ……でも、やっぱり失敗は怖いです」
成長につながると言われても、おいそれと失敗を選ぶことなんてできないと、メイプルは小さく震える。
「それに私には頼りになる皆さんがいますから、失敗はしない方向で成長したいと思いますので、これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
そう言ってペコリと頭を下げ、指定された定位置へと戻っていくメイプルに、ウィルとロウガは顔を見合わせて苦笑する。
自分たちにも、今のメイプルと全く同じことを思っていた時期があるからだ。
だが、当然ながら失敗を絶対にしない者などいないし、ウィルたちがいつまでもメイプルと一緒にいられる保証もないのだ。
冒険が死と隣り合わせである以上、いつ誰が志半ばで倒れるかは、神のみぞ知るところなのだ。
「……とはいえ、これ以上は何を言っても無駄でしょうね」
「じゃな」
結局のところ、口でいくら言っても実際に経験してみないことには、失敗の大切さに気付くことはできない。
身をもってそのことをよく知っているウィルは、メイプルの小さな背中を見ながら嘆息する。
「これからもロウガさんたちには色々とご迷惑をおかけすると思いますが……」
「何、気にするな」
恐縮するウィルに、ロウガは何でもないといった風に胸を強く叩く。
「共に行くと決めた時から、最後まで面倒を見ると決めたのじゃ。だからこれからも、大いに頼ってくれていいぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「まあ、ただのぅ……」
ロウガは意味深に笑うと、ウィルの肩を引き寄せて耳元でそっと囁く。
「見返り……というわけではないが、これからもうまい飯を頼むぞ」
「それはもう、後はうまい酒も忘れずに、ですね」
「じゃな。食こそ人生最大の楽しみと言っても過言ではないし、我々はその楽しみを謳歌するために旅をしているのじゃからな」
「全くです」
志を同じくしている二人は大きく頷き合うと、グリフォンをどう調理するかを話しながらスモークウッドの町へ戻っていった。




