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普通の冒険者、決着の一撃を放つ

 突然の魔法による攻撃に全員が混乱する中、ウィルだけがロウガの声を拾って即座に行動を開始していた。


 本当は飛び立つのを阻止しようとしたのだが、それより早くグリフォンが動いたので、仕方なく怪鳥の羽に残っていた網に掴まったのだった。


「うっ、さ、寒い……」


 落ちないように網目に腕を引っかけながら、ウィルはここからどうすべきか考える。


 実を言うと、勢いよく飛び出したまではよかったが、これからどうするかをウィルは何も考えていなかった。

 頼りとなるハルバードは綱引きに負けた時に何処かに行ってしまって手元になく、あるのは背中の大盾のみ。


「……しまったな」


 攻撃手段がないことに気付いたウィルは、何かないかと周囲を見渡し、


「ヒッ!?」


 下を見て高度がかなり出ていることに気付き、全身から血の気が引くのを自覚する。


「と、とにかく、奴を引き摺り落とすことを最優先にしよう」


 このままでは取り返しのつかないことになると察したウィルは、早々に決着をつけることにする。


「ランドさん、信じてますからね……ふん!」


 ロウガとランドの打ち合わせを思い出し、彼等の仕事を信頼してウィルは掴んでいる網に体重をかける。


「キエッ!?」


 ウィルが網に体重をかけると、ガクッと高度が下がる。


「よし、これなら……」


 火の魔法で一部が焼けても、まだしっかり強度が保たれていることを確認したウィルは、二度、三度と網に体重をかけていく。


「キエ……」


 グイグイと右の翼を引かれる感覚に、右側の視界を失っていたグリフォンがようやく異変に気付いて顔をウィルへと向ける。


「――ッ、キ、キエエエエエエエエエエエエエエェェ!」


 ウィルを見つけたグリフォンは、上昇するのを止め、掴まる彼を突き落とそうとライオンの足で蹴りを繰り出してくる。


「クッ、や、やめろ!」


 まともに攻撃を受けたら真っ逆さまに落ちる恐怖に、ウィルは必死になって大盾で防御していく。


「キエッ、キエッ、キエエエエエエエエエエエエエエェェ!」


 グリフォンが激しく暴れる度に、網が外れそうになることにウィルは肝を冷やす。


「こ、このままじゃ……」


 グリフォンの上昇と移動を抑えられたことは僥倖だったが、ひたすら防御しかできないのは大問題だ。


 ライオンの足による攻撃も苛烈で、蹴りが大盾とぶつかる度に激しく火花を散らし、魔法が解けていくのかその輝きを失っていく。


「うっ……ぐっ……ど、どうする」


 このままでは大盾にかけられた魔法が失われてしまうし、それ以前に網に掴まっている腕の限界も近い。


「せめて時間稼ぎだけでもと思ったけど……」


 地面に叩き落されるのは時間の問題なので、網を手放して飛び降りようかと思ったその時、


「兄さん、盾の力を! 魔法が消える前に……早く!」

「そ、そうか!」


 地面からメイプルの叫び声が聞こえ、ウィルはまだ手があったことを思い出す。


「こん……のおおおおおお!」

「キエッ!?」


 渾身の力を振り絞ってグリフォンの足を跳ね除けたウィルは、大盾をグリフォンの顔へ向け、メイプルから事前に聞かされていた文言を叫ぶ。


「いけっ、シールドバッシュ!」


 すると、ウィルが持つ大盾が一際大きく光ったかと思うと、盾から不可視の衝撃波が射出されてグリフォンの顔面を打ち貫く。


 この魔法は、カーネル直伝の盾に付与された魔法を衝撃波として射出する魔法だ。


 これを使うと付与の魔法が消えてしまうというデメリットはあるが、本人の力量に左右されることなく一定の力が出せるので、カーネルの言葉通りここ一番では有用な魔法と言えた。


「どうだ!」

「キエッ……」


 大盾からの衝撃波をまともに受けたグリフォンは、顔を大きくのけ反らせたかと思うと、力を失ったように地面へと落ち始める。


「やった……って、うおわぁっ!」


 思わず喜びそうになるウィルであったが、グリフォンと一緒に落下していることに気付いて青ざめる。


「クッ…………せ、せめて、受け身だけでも取らないと……」


 みるみる迫る地面を睨み、ウィルはその時に備える。



 次の瞬間、グリフォンが墜落して大きな音と共に衝撃で大量の土砂が宙に舞った。




「うっ……あ……あがっ……」


 背中を強打したウィルは、苦悶の表情を浮かべながらゆっくりを身を起こす。


「ど、どうにか受け身は取れたけど……めちゃくちゃ痛い……」


 かなりの高さから落ちたにも拘わらず、ウィルが無事でいられたのは受け身を取ることに成功した以外に、仲間から受けた防御のバフがあったことと、グリフォンの体を下敷きにできたことにあった。


「……俺と違って流石にお前は無事に済まなかったようだな」


 呼吸を整えながらウィルが見る先には、頭から血を流し、息も絶え絶えになっているグリフォンがいた。


「キ……エッ……」


 今にも命の灯が消えそうになっているグリフォンは潤んだ瞳でウィルを見る。


「キュイ……キュイキュイ……」


 今にも掻き消えてしまいそうなか細い声で鳴く様は、まるでウィルに命乞いをしているようだった。


「……苦しいよな……辛いよな」


 グリフォンの気持ちを察したウィルは、悲しそうに目を伏せてかぶりを振る。


「同族との生存競争に負け、ようやく落ち着いた地で命を奪われるのは堪らないよな……」


 だが、


「それでも俺たちは、お前を倒さなきゃならないんだ」


 グリフォンのような強大で強力な魔物が居着く土地は、生態系へ与える影響が非常に大きい。


 今回の琥珀の森のように生活圏を追われた野生動物や魔物たちが、僅かに残された生存権をかけて争うという通常ではあり得ない状況になっていたりする。


 人の営みに与える影響も勿論大きく、スモークウッドの町では近隣の交流が鈍化し、町の経済への打撃も少なくない。


「例えここからいなくなっても、次に移り住んだ場所で同じように苦しむ人が出ないようにするためにも、ここでキッチリ片を付けさせてもらうよ」


 ウィルは静かに話しながら腰からナイフを取り出す。


「せめて、苦しまないようにするから……」


 グリフォンの正面に立ったウィルは、ナイフを両手に持って振りかぶる。


「お前の眠りが、どうか安らかなものでありますように」


 祈りの言葉を紡ぎながら、ウィルはグリフォンの頭目掛けてナイフを振り下ろした。

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