普通の冒険者、皆の盾として一人立ち上がる
「なん……で?」
意味が分からず呆然と立ち尽くす少年に向かって、網が絡まったまま立ち上がったグリフォンの黄色い瞳が向けられる。
「ヒッ!?」
グリフォンの意識が自分に向いたのを自覚した少年は、逃げるどころか恐怖に呑まれてその場に尻餅を付いてしまう。
「キエエエェェ!」
そんな隙をグリフォンが見逃すはずもなく、奇声を上げて全身に絡みついていた木の根を一瞬で吹き飛ばすと、少年へとかぎ爪を振り下ろす。
「わ、わああああああああぁぁ!」
「危ない!」
悲鳴を上げる少年を助けるため、ウィルと共に盾役を引き受けたプレートアーマーの冒険者が間に割って入ってグリフォンの攻撃を受け止める。
「ぐああああぁぁ!」
しかし、グリフォンの攻撃を真正面からまともに受け止めたプレートアーマーの冒険者の体が、後ろにいた少年ごと大きく吹き飛ばされ、背後にあった巨木に激突する。
「がはっ!」
「うぐっ」
体を強かに打ち付けられた二人はそのまま動かなくなってしまうが、後衛のサポート役が素早く安全な場所へと連れていく。
「お、おい……」
「これ、いけるのか?」
頼りになる盾役が一枚落ちたこと、技術は未熟とはいえ渾身の一撃が通らなかったことで、冒険者たちの間に動揺が広がる。
気が付けば、最初に長槍を突き刺した傷口からの血の噴出も止まっている。
「さっきの攻撃でせっかく傷付けたのに……」
「こ、ここは一旦引いて、立て直しを図るべきじゃ……」
一人の冒険者が弱気な発言をすると、
「おいおい、何、ビビってんだよ! それでも男か!?」
ロゼが弱気になりかけた空気を吹き飛ばすように、叫びながらグリフォンへと切りかかる。
「うおりゃあああああああぁぁ!」
叫びながらロゼが斧を横なぎに払うと、グリフォンの右の翼が横一文字に切り裂かれて鮮血が舞う。
「見てみろ! こいつだってちゃんと傷付けられるんだ。恐れず、立ち向うんだ!」
「そ、そうだ。恐れるな!」
「俺たちがやらなきゃ、誰が村の平和を守るんだ!」
ロゼの言葉に、勇気をもらった冒険者たちが再び立ち上がろうとするが、
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェ!!」
グリフォンが身の毛もよだつような叫び声を上げ、くるりとその場で回転する。
すると、
「うわっ!」
「ぐわっ、な、何だ!」
「いてぇ……いてぇよ……」
突如として冒険者たちが次々と苦しみ出す。
「こ、これは……」
グリフォンから何かが飛んでくるのを見て、咄嗟に大盾でガードしたウィルは、表面に刺さっているものを見て目を見開く。
「グリフォンの……羽!?」
普通では有り得ない大きさをした茶褐色の羽は、先日に琥珀の森の中で拾ったグリフォンの羽と全く同じだった。
どうやらグリフォンが自在に動かせる右の翼から羽を礫のように発射して、冒険者たちを攻撃したようだった。
「くっ、油断したぜ」
咄嗟に防御したのか、ロゼの腕にも数本の羽が刺さっている。
歯を食いしばって羽を抜いていくが、羽が大きい分だけ傷口も大きく、ロゼの腕からは血が次から次へと溢れ出て来る。
「クソッ、今更退けるからよ!」
今まで見たことのない攻撃を前に、冒険者全体が浮足立っているのを察したロゼは、刺さった羽を無理矢理引き抜いて前に出る。
「キエッ! キエエエエエエエエエエエエエエェェッ!」
だが、突撃するロゼを待ち受けていたかのように、グリフォンは彼女に向かって羽の礫を放つ。
「――しまっ!?」
「ロゼ!」
ロゼが動くのを見て、同時に飛び出していたウィルが彼女の前に割って入って大盾で羽を防ぐ。
「リーダー!」
「大丈夫、怪我はないよ」
全ての羽を防ぎきったことをアピールしながら、ウィルはロゼと一緒に下がる。
「全く、無茶し過ぎですわよ!」
リーリエからの援護を受けながら退避したウィルは、血相を変えて飛んできたメイプルにロゼの治療を頼みながら話しかける。
「言ったろ。無理は駄目だって……」
「わ、悪い……まさか奴があんな奥の手を持ってるなんて思ってなくて」
「そう……だね。こいつは予想外だった」
努めて冷静さを装いながら、ウィルは現状を把握する。
双璧となっていたもう一人の盾役がいなくなったことで、これまでのような防御主体の戦い方は難しくなってしまった。
盾役はウィル以外にも二人いるが、装備が貧弱というのもあるが、それより心の拠り所であったプレートアーマーの冒険者が倒れてしまったことで、自信を喪失しているように見える。
「だけど……」
今から他の作戦を立てるのも難しいし、そもそもそれを共有する術がない。
結局のところ、現状の作戦を続けるしかないのだ。
「……よし、いける」
ウィルはまだ大盾に援護魔法が効いているのを確認して、治療中のロゼに話しかける。
「ロゼ、俺が時間を稼ぐから、今のうちに立て直してもう一度皆で攻勢を仕掛けてくれ」
「お、おい、待てよ。まさか一人で……」
「大丈夫……来るよ」
ウィルの視線に気づく様子もなく、狼狽えている二人の若手を見ながら小さく頷く。
「俺はあの人みたいに上手く喋れないから、態度で示して動かしてみせるよ」
ウィルは自分の盾をハルバードで叩いて大きな音を鳴らし、二人の盾役にアピールして前へ進み出る。




