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普通の冒険者、決戦の前に腹ごしらえをする

 琥珀の森の入口で再び点呼を行い、全員が揃ったのを確認したところでいよいよ大規模討伐クエストがはじまる。


「この先にホトの木がいた広場があります。そこにグリフォンをおびき寄せます」


 先日、マグの実の採取クエストで見つけた広場へと案内しながら、ウィルがそこへグリフォンを誘う理由を話す。


「そこは奥が広く手前が狭い空間になっていますので、グリフォンのヘイトを俺たちタンクに優先的に向けることができるんです」

「それはわかったけど、グリフォンの爪は鉄の盾ぐらいは易々と切り裂くらしいぞ」

「俺、普通の鉄の盾なんですけど、大丈夫ですかね?」

「大丈夫です」


 自分の装備に不安そうな若手の冒険者に、ウィルは冷静に対処法を告げる。

「今回は後衛の方がたくさんいるので、盾に重ね掛けのバフをもらいましょう。受け方についてはその都度支持を出させていただきますので、皆さんはフォローをお願いします」


「わ、わかった」

「そうか、ウィルさんは一度グリフォンと戦っているんだったな」


 ウィル以外にも盾役として最前線に立つ冒険者が五名おり、全員がタワーシールド、もしくはそれに近いサイズの大きな盾を持っている。


 ベテランの冒険者となれば、並の武具店では取り扱っていないようなレアな鉱石を使った盾を持っているが、店売りの鉄の盾しか持っていないビギナーもいる。


 そこでウィルは、メイプルがカーネルから聞いてきたバフの効率化の情報をもとに後衛担当の冒険者と相談して、誰にどのように盾を強化していくかを決めていた。


「ちゃんと全員に働いてもらいますけど、無理はせず、自身の命を最優先に考えて下さい」

「わ、わかった」

「頑張ります」


 緊張した面持ちのビギナーの冒険者が頷くと、入れ替わるようにベテランの冒険者が彼らに話しかける。


「というわけだ。ひよっこは俺と一緒に後衛の奴等に挨拶がてらバフをもらいに行くぞ」


 そう言ってベテランの冒険者は、ビギナーの盾役と共に後衛へ下がって支援担当の魔法使いからバフをもらいに行く。


 この後、全員が準備を整えたところで、いよいよグリフォンを呼び寄せることになる。



「兄さん」


 暫しの休憩となり、ウィルが一人になったところで仲間たちが彼の周りに集まる。


「多くの人を前でも堂々としていて、とっても立派でした」

「これなら次の等級へのランクアップも見えて来るかもな」

「よしてくれよ。本当にいっぱいいっぱいだったんだから」


 メイプルとロゼの称賛の言葉に、ウィルは照れたように小さくかぶりを振る。


「それに俺の評価より、誰一人欠けることなく、全員で生き延びることの方がよっぽど大事だよ」


 そう言って集まった冒険者たちを優しい眼差しで眺めるウィルに、仲間たちは呆れたように揃って肩を竦める。


「まあ、普通な小言の一つでも言いたいところですが……それより、ウィル」


 冒険者たちを眺める間に割って入ったリーリエは、ウィルに向かって手を差し出す。


「わたくしたち、戦闘前に何か腹ごしらえがしたいのですわ」

「腹が減っては……とはよく言うからじゃのう」


 リーリエの言葉に、ロウガがすかさず賛同する。


「聞いたところ、ロゼと買い物に行った時にいいものを見つけたとか?」

「流石に耳が早いですね」


 ロゼから聞いたのか、それともどこかで見ていたのか、食べ物に関しては謎の嗅覚を発揮させる仲間たちに苦笑しながら、ウィルは用意していたものを取り出す。


「流石に同じものを用意できなかったけど、ベリーを煮て溶かしたチーズと一緒にしたものを瓶に詰めてきました。後はスコーンも焼いてきたので、そちらに付けて食べてましょう」


 ウィルが料理を差し出すと、仲間たちが一斉に手を伸ばす。


「ムホホ、ベリーの酸味とチーズの塩気が、バターの効いたスコーンとの相性が絶妙じゃな」

「ええ、とってもおいしいですけど……これは飲み物が欲しくなりますわね」

「はい、流石にワインは駄目ですけど、お茶ならありますよ」


 すると、すかさずメイプルが木製の水筒をリーリエに差し出す。


「こんなこともあろうかと、全員分用意しておきました」

「流石、よくできた妹ですわ」


 リーリエはメイプルを抱き寄せて頬擦りをすると、片手で器用に水筒を開けて中身を煽る。


「んん~、やはりスコーンにはお茶がピッタリですわね」

「だな。口の中がさっぱりするから、スコーンに付けるベリーの量を変えるだけでいくらでも楽しめるな」

「ムムッ、ベリーの量を減らした方が、スコーンの味わいが強くなってよりうまくなるではないか! 足し算だけが正解じゃないというわけじゃな」


 ベリーのチーズジャムを付ける量で味わいの変化が出ることに気付いた仲間たちは、どれぐらいがベストの配合かを議論しながら食べていく。



 ※


「お、おい、ウィルさんのところ、飯食ってるぞ」


 すると、ウィルたちの様子に気付いた若手の冒険者たちが、不思議そうに彼らを見やる。


「このタイミングで飯を食うとか、アリなのか?」

「わかんねぇよ。そもそも携帯食料以外の飯を持ってくとか考えたことないし……」


 そう言って彼らは、冒険者ギルドで売っているお世辞にもうまいとは言えない携帯食料を思い出す。


「……今度のクエストは、何か摘まめる物を持って行こうかな」

「だな。荷物になるから水筒も無視してきたけど、買った方がいいかもな」

「その前に、料理を覚える方が先だけどな」


 これから強敵との決戦に挑もうというのに、まるでピクニックに行くかのような和気あいあいとした様子のウィルたちを、周りの冒険者たちは羨望の眼差しを送りながらあることを決意していた。


 次にクエストに出る時は、うまい飯を持って行こう、と。

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