普通の冒険者のパーティー、いざ出陣の時
――翌日、いよいよ冒険者たちによるグリフォンの大規模討伐クエストが始まる。
「お前たち、よく逃げずに集まってくれた。まずその勇気に感謝を伝えたい」
スモークウッドの町の入口に集まった冒険者たちの顔を見て、ギルド長が満面の笑みを浮かべてみせる。
「俺たちギルドの人間は送り出すことしかできないが、クエスト達成の暁には、お前たち全員に俺から特別ボーナスを支払うことを約束しよう」
「おおっ、マジかよ!」
「流石ギルド長、太っ腹だぜ」
「これは俄然、やる気が出てきたぜ!」
「よし、皆。必ず全員生き延びて、ギルド長の財布を空っぽにしてやろうぜ!」
ギルド長の発破に、単純な者たちの喜びの声が上がる。
だが、それは一部の者だけで、多くの冒険者……特に経験がある者こそギルド長の言葉の真意を正しく理解していた。
それはつまり、それだけ今回のクエストが危険で、生存確率が低いものだということだ。
一部の呑気な冒険者と、対照的に気を引き締めた様子の冒険者たちを眺めながら、ギルド長は緊張した面持ちで佇むウィルへと目を向ける。
「それで、最も重要なことだが……ウィル」
「は、はい、何でしょう」
背筋をピンと伸ばして立つウィルに、ギルド長は苦笑を漏らしながら手を伸ばして彼の肩を叩く。
「今回の作戦だが、君の作戦を採用させてもらうことにした」
「えっ、ほ、本当ですか?」
「うむ、完全……というわけではないが、殆どは君の作戦でいかせてもらおうと思ってる。流石は軍神の認めた男というわけだな」
「あ、ありがとうございます」
ウィルがペコペコと何度も頭を下げると、
「今日はよろしく頼むぞ」
「俺たちもサポートしてやるから、自信もっていけよ!」
「軍神直伝の指揮にも期待しているからな」
周囲の冒険者たちも次々に期待の言葉を投げかけていく。
「それじゃあ最後に細かい作戦について、ウィルよろしく頼むぞ」
「はい、わかりました」
ギルド長から作戦の細かい内容について説明するように言われたウィルは、前に出てハッキリとした声で話していく。
新人からベテランまで、多くの冒険者がウィルの説明に耳を傾けていると、
「フフッ、どうしましたの?」
少し離れた場所で様子を伺っていたロウガに、リーリエが近付いて小声で話しかける。
「自慢の弟子の晴れ姿がそんなに嬉しいのかしら?」
「それはそうじゃろう」
からかうようなリーリエの声に、ロウガは真面目な表情で感慨深げに頷く。
「人と違う道を選んだ……成果を重視しないウィルを認めない者は多いが、ワシはあ奴の偉業を成し遂げようとするよりも、世界を見て回り、困っている人がいたら助けたいという気概こそ真の冒険者だと思うんじゃ」
「真の……とは大きく出ましたわね」
掛け値なしの絶賛の言葉に、リーリエは呆れたようにロウガを見る。
「ロウガ……あなたやっぱり、ウィルと出会って変わりましたわね」
「何を言うか、それはお主もじゃろう」
ロウガはリーリエも同じ穴の狢だと謂わんばかりに、彼女の額を指差す。
「かつては人の心がないとまで言われた閃光様が、随分と優しくなったものじゃ」
「それは……いえ、そうですわね」
かつての自分を思い出して、リーリエは深々と嘆息する。
「一時はダンジョン専門で潜っていましたが……あの時は本当にどうかしていましたわ」
「全くじゃな。ダンジョン名誉……そして宝は人を狂わせる」
「ええ、本当に……」
互いに過去の姿を知っているからか、二人は顔を見合わせて肩を竦める。
「少なくともウィルたちには、ワシ等と同じ轍を踏まないように、気をつけたいところじゃ」
「ええ、全くですわ」
まだまだ未熟者のウィルたちの教育方針を話しながら、ベテランの二人はウィルの演説を見守り続けた。
ウィルの作戦を共有した冒険者たちは、一度解散してバラバラに琥珀の森へと向かうことになった。
「う~ん……」
いつものパーティーメンバーだけになったところで、メイプルが不思議そうに小首を傾げる。
「あの……どうして皆一緒に行かないのでしょう?」
「まあ、不思議に思うかもしれぬが仕方のないことなんじゃよ」
メイプルの疑問に、ロウガが顎をさすりながら一連の流れに付いて話す。
「ところでメイプル、出発前に受け取った札は持っているな?」
「あっ、はい……これですよね」
メイプルは頷くと、出発前にギルド職員から受け取った手のひらサイズの木札を取り出す。
「何か番号が彫られていますけど、これっていったい何ですか?」
「それは大規模討伐クエストに参加しているという証じゃ。それがないと報酬がもらえなくなるから、無くさないようにな」
「そ、そうなんですか?」
「うむ、大規模討伐クエスト大人数で行うからキチンと参加メンバーの確認を行う必要があるのじゃよ。だから参加を募る時と出発する時で、別々に点呼するのじゃ」
大規模討伐クエストは、最初の集会の時にクエスト参加メンバーの名簿を作り、出発の時に参加の証である木札が渡される。
木札の番号は名簿に記載され、例えクエストの途中で参加者が死亡して、他の者が木札を奪ったとしても、名簿の番号と本人が一致しなければ報酬は貰えない仕組みになっている。
「こうでもしないと、あらゆる不正を使って報酬を受け取ろうとする輩がいるからな。他にも途中退出や、最後だけ参加して報酬を受け取ろうという不埒な輩が出ないように、この木札には位置情報がわかる魔法がかけられておるのじゃよ」
「この木札にそんな効果が……」
どう見てもただの木の札にしか見えないと、メイプルは木札をいろんな角度から見てみる。
「そしてバラバラに行く理由は、人数が増えれば移動速度が遅くなるからじゃ。それで森に辿り着く前にグリフォンに見つかったら……」
「作戦どころじゃなくなってしまいますね」
「そういうことじゃ」
理解の早い教え子に、ロウガは満足そうに何度も頷く。
「というわけじゃ、ワシ等も遅れるわけにはいかないから急いで森まで向かうぞ」
「はい、急ぎましょう」
メイプルは参加者の証である木札を荷物の中に入れると、他の参加者に遅れないように急ぎ足で琥珀の森へと向かった。




