普通の冒険者の妹、新たな力を手に入れる
話に夢中のロウガをランドの衣料品店に置いて、ウィルとメイプルはカーネルの工房へと向かった。
「あっ、ウィルさん」
ウィルたちが扉をノックして中に入ると、大盾を磨いていたカーネルが笑顔で迎えてくれる。
「ちょうど今しがた、全ての作業が完了したところです」
「ということは?」
「ええ、ご確認をお願いします」
カーネルに促され、ウィルは中央のテーブルの上ですっかり元に戻り、ピカピカに磨き上げられた大盾を手に取る。
グリフォンの爪とくちばしで凸凹にされた表面はすっかり元通りになり、激しい攻防で歪み、傷んだ部位も直って手に取って持ってみても微塵も揺らぐことも軋むこともない。
しかも、変化はそれだけではなかった。
「おおっ!? なんか、前より軽くなったような気がする」
「そこに気付くのは流石ですね」
ほんの僅かな変化に気付くウィルに、カーネルは嬉しそうに破顔する。
「前に修繕された時に付けられたと思われる追加の鋼を外して、代わりにミスリル粉末で代用しましたから以前より軽く、魔法の通りがよくなっているはずです」
「つ、追加の素材にミスリルを使ったのですか?」
「ハハハ、ご心配には及びませんよ」
それってお高いんでしょ? と不安そうな顔をするウィルに、カーネルがカラカラと笑いながら昨日も使った瓶を取り出す。
「これは仕上げ作業の時に削った破片を集めて、ミスリルだけを取り出して粉末状にしたものです。これを使ったので原価は通常の半分以下でしたので安心してください」
「なるほど……ちなみにミスリルって通常はおいくらなんですか?」
「…………聞きたいですか?」
少し間をおいて声のトーンを下げて問いかけて来るカーネルに、ウィルはブンブンと音がするほど激しく首を横に振る。
「や、やめておきます。聞いたら盾を構えるのを躊躇しそうになりそうなので……」
「ハハハ、ならこの話はおしまいにしましょう」
カーネルはミスリルが入った瓶を棚に戻すと、ウィルの後ろで控えるメイプルに目を向ける。
「ところで後ろの方は、ウィルさんのご家族の方ですか?」
「わかりますか?」
「ウィルさんによく似ていますから……妹さんですか?」
「ええ、その通りです」
頷いたウィルは、メイプルを手招きして呼び寄せ、カーネルに彼女を紹介する。
「カーネルさん、こちらは妹のメイプルです。見ての通り神官としてパーティーでの回復役を担ってもらっています」
「はじめまして、メイプルです」
「はじめまして、今回お兄さんの盾を修繕させていただいカーネルです。まだ若いのにパーティーの回復役を担ってるなんて凄いですね」
「あ、ありがとうございます」
神官の証である法衣を正してペコリと頭を下げたメイプルは、真剣な表情でカーネルに尋ねる。
「あ、あの、カーネルさん。私がここに来たのはあることが聞きたかったからです」
「あること……ですか?」
「はい、カーネルさんは魔導鍛冶師として優秀なだけでなく、魔法にもかなり精通していると冒険者ギルドでお聞きしました」
カーネルについて独自に見聞きしてきたメイプルは、彼に向かってあるお願いをする。
「お願いします。私に効果的な魔法の使い方を教えていただけないでしょうか?」
「僕に、ですか?」
「はい、兄さんの盾を直したカーネルさんなら、より効率的に盾に魔法を施す方法をご存知じゃないでしょうか?」
「それはまあ……確かに」
武具をより強く、効果的に仕上げるためには、武具の構造に詳しくなるのも当然だが、武具にエンチャントする魔法についても詳しくなければ魔導鍛冶は務まらない。
「だけど、僕なんかでいいんですか? 確かに僕は知識はあるけど、実際に魔法が使えるわけじゃないよ?」
「大丈夫です。問題ありません」
大きく頷いたメイプルは、カーネルでなければ駄目な理由を話す。
「確かに経験ある人に聞くべきかと思いますが、グリフォンと戦うのは明日なんです。ですから今は新しい技術を学ぶよりも、今ある力をより効率的に使えるようにしたいんです」
「なるほど、ウィルさんを守るために……」
「それだけじゃなく、一緒に戦う冒険者の人にも情報共有できるような知識が欲しいんです。冒険者じゃない、別の視座からの情報が欲しいんです」
「そういうことですか」
絞り出すように返事をして頷くメイプルを見て、カーネルはウィルの方を見る。
声には出さずに「いいんですか?」と口の動きで訴えると、ウィルは問題ないと頷く。
ならば、カーネルに断る理由はなかった。
「わかりました。魔法の効率化なら得意分野ですから、僕の知識でよければお教えします」
「は、はい、お願いします」
笑顔を弾けさせて手作りのメモ帳を取り出すメイプルに、カーネルは戸棚から一冊の本を取り出して持ってくる。
「では、せっかくなので、とっておきの魔法を一つお教えしましょう」
「魔法……ですか?」
「ええ、従来の補助魔法にちょっと手を加えた魔法です。どう使うかはウィルさん次第になりますが、きっとここ一番の時に役に立つはずです……どうでしょう?」
「ぜ、ぜひ教えてください。それは今の私にもできますか?」
「ええ、きっとできるはずです。その魔法はですね……」
そう言ってカーネルは、本に書かれたとっておきだという魔法をメイプルに説明していった。




