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普通の冒険者、決戦に向けて準備する

 グリフォンの大規模討伐クエストは、参加を表明した冒険者たちの準備期間を一日設け、二日後に行われることが決まって解散となった。


 ウィルが提案した作戦はそのまま即採用……とはならず、案の一つしてギルドの方で精査して、最終判断が下されることになった。




 ――翌日、カーネルとの約束の時間にまだ余裕があるため、ウィルはメイプル、ロウガと共にある人物に会うためにスモークウッドの町を歩いていた。


「それにしても、昨日は驚きの連続でした」


 昨晩の冒険者ギルドでの会議の様子を思い出しながら、メイプルはウィルを見て「ほぅ」と嘆息する。

「ロウガさんとリーリエさんの秘密も驚きましたけど、まさか兄さんのあんな堂々とした姿が見られるなんて……」

「別に凄くなんかないよ。ああいう場ではああいう態度が求められるから、頑張って演技しただけだよ」


 メイプルからの尊敬の眼差しを向けられても、ウィルは照れることも誇ることもせずに淡々と話す。


「俺は普通の人より冒険者になるのが遅かったし、まともな実績を何一つ残せていない。そんな俺が説得力を出すためには、堂々とするしかなかったんだ」

「へぇ、そうだったんですね」


 思い出して胃が痛くなったのか、苦しそうに胸を押さえるウィルを見て、メイプルは気になったことを兄に尋ねる。


「……と、ロウガさんに教わったんですよね?」

「当たり前だろ。俺に……そんな度胸なんてないよ」


 ウィルが素直に白状すると、メイプルはロウガと顔を見合わせて声を上げて笑った。



 メイプルとロウガに適度にからかわれながら、ウィルはスモークウッドの町の商店が並ぶ通りへとやって来る。


「あそこかな?」


 軒先にぶら下がったドレスを模った看板を確認したウィルは、おそるおそる扉を開けて中に向かって声をかける。


「ごめんくださ~い」

「あっ、は~い」


 ウィルの呼びかけに、店の奥からパタパタと足音を立てて店員がやって来る。


「いらっしゃいませ……って、ウィルさんじゃないですか!?」


 現れた店主、ランドはウィルの姿を見て喜色を浮かべる。


「ああ、お久しぶりです。ここまで連れて来てもらったのに、まともにご挨拶もできていなくて申し訳ないです」

「いえ、ランドさんもご自分の店の準備に忙しいと思いますから、お気になさらないでください」


 そう言ってウィルはまだ新しい、木の香りのする店内をぐるりと見渡して笑みを浮かべる。


「素敵なお店ですね。ランドさんらしいとても華やかなお店です」

「そう言ってもらえて嬉しいです。どれも妻が作った自慢の品ですから」


 にこやかに笑うランドの格好は、明るい桃色のゆったりとしたシュールコーと、同じ色の帽子を身に付けている。


「この服も、妻が私のために仕立ててくれたんです。一見すると奇抜かもしれませんが、不思議と私に合っていると思いませんか?」

「ええ、よくお似合いですよ」

「ですよね? これもきっと愛のなせる業なのだろうと思います」


 妻が自分のために作ってくれた服を気に入っているのか、ランドはウィルに見せびらかすようにクルクルと回る。


「っと、すみません。私の服より商売の話ですね」


 咳払いを一つしたランドは、ウィルたちに向き直って商人の顔になる。


「それで、今日はどのようなご用でしょうか? 何か服をお探しですか?」

「いえ、今日は服を買いに来たんじゃないんです」


 ゆっくりかぶりを振ったウィルは、ランドにここに来た目的を話す。


「実は、明日から行われるグリフォンの大規模討伐に俺たちも参加することにしたんです」

「ほ、本当ですか!? そうですか……グリフォンの……」


 琥珀の森でグリフォンと遭遇したことを思い出したランドは、眦を下げて顔を伏せる。


「町の人たちも、グリフォンが現れたことで不安を覚えています。町の上をグリフォンが飛んだことで、子供たちも外で遊ばせるわけにもいかず……可哀そうな話ですが」

「そう……でしょうね」


 あの一瞬の出来事で、町の人たちの生活は大きく変わってしまった。


 いつグリフォンが現れるかわからない不安から外出する人は大きく減り、昨日まで賑わっていた通りも今日は随分と閑散としていた。

 今は外出を控えるだけにとどまっているが、グリフォンの動向次第では町から退去する者が出てくるかもしれない。


 スモークウッドの町を守るためには、グリフォン討伐は至上命令と言えるだろう。


「ウィルさん……」


 顔を上げたランドは、ウィルの手を取って深々と頭を下げる。


「お願いします。どうか……どうかグリフォンを討伐してこの町を救ってください」

「勿論です。そのために今日はここに来たのですから」

「はい、何でも仰ってください。私にできることなら、何でも協力しますから」

「ありがとうございます。実は、ランドさんに大至急作ってもらいたいものがあるんです」


 ウィルは振り返ると、ロウガに向かって声をかける。


「ロウガさん、お願いします」

「うむ、店主に作ってもらいたいものはこれじゃ」


 そう言ってロウガは、仕様書が描かれたスクロールを取り出す。


「グリフォン討伐に欠かせないアイテムなのじゃが、これを明日までに二つ用意できるか?」

「これを……」


 仕様書を広げたランドは、真剣な表情になって描かれた絵をなぞっていく。


「そう……ですね。構造自体は単純なのと、代替品があるので作ることは難しくないですが、問題は強度ですかね?」

「うむ、当然ながらある程度の強度は必要じゃな」


 ランドの伺うような視線に、ロウガは鷹揚に頷く。


「とはいえそこまで難しくはないはずじゃ。後は……」

「後はできるだけ頑丈にした方がいいですよね。人が乗っても千切れないような……」

「ふむ、悪くない。なら使う素材は……」


 意気投合したのか、ロウガとランドは仕様書を前に「ああでもない」「こうでもない」と熱い議論を交わしていく。


 その様子は二人だけの世界といった様子で、既に二人の目にウィルたちの姿は映っていない。


「……兄さん」

「ああ、ここはロウガさんたちに任せて、俺たちはカーネルさんのところに行こうか?」

「それって兄さんの盾の修理を依頼している方ですよね?」

「そうだよ。そろそろ行っても大丈夫なはずだから、向かうとしよう」


 念のためロウガたちにカーネルの工房に向かう旨を伝えたが、議論に夢中になっている二人には届かなかったので、ウィルたちは諦めて衣料品店を後にした。

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