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普通の冒険者、魔法の鍛冶を見学する。

 竈の中には既に赤々と燃える炎が渦巻いており、鉄製の扉を開けるだけで室内の温度が数度上がったように感じる。


 火かき棒で竈の中の火を調節するカーネルを見ながら、ウィルはおそるおそる彼に尋ねる。


「あの、カーネルさん。せっかくですから見学させてもらってもいいですか?」

「いいですよ。作業時間はそこまでかかりませんから」


 振り返ったカーネルは、ゴーグルとマスクを付けた自分の顔をトントン、と指差す。


「魔導鍛冶に力は要りませんが、マグの実の燃焼で発生する煙で魔法酔いすることがありますので、こうして鼻と口を押さえる必要があるんです」

「なるほど」


 つまるところ、見学するなら必要な装備をしろと伝え垂れたウィルとロゼは、自分の手荷物から大きめの布を取り出すと、慣れた手つきで鼻と口を覆う。


「町の外には空気が汚染されている場所も結構ありますから、大抵の冒険者はこういう装備品の用意があるんです」

「なるほど、大事なことですね」


 ウィルたちがしっかり鼻と口を覆ったのを確認したカーネルは、竈の中で熱気渦巻く炎の中にマグの実を放り投げる。


 すると、炎の色が灼熱の赤から夜の帳が降りたような深い蒼へと変わる。


「火の色が……」

「火に魔法の力が加わった証です。見た目は涼しそうですが、これまで以上に温度が高くなっていますので気を付けて下さい」


 既に額に玉のような汗を流しているカーネルは、火かき棒で竈の中を細かく拡販させて蒼い炎をさらに大きくしていく。


「うっ……」

「凄い熱気だな」


 竈から十分距離を取っているにもかかわらず、肌を焼かれる熱気にウィルとロゼは堪らずさらに距離を取る。

 だが、そんな熱気を前にしてもカーネルは全く臆することなく、目の前の炎に集中して理想の火へと近付けていく。


「……よし」


 中が十分な温度になったのか、カーネルは頷いてウィルの盾を竈の中へと入れる。


「まずは凹んだ部位を整え、続けて欠損部位を補います。ただ、それだと重量が増すだけなので、余計な部分を削って軽量化も行います」

「なるほど……」

「よければ形を変えることもできますが、何かこんな機能があったら、みたいなことはありますか?」

「えっ、ど、どうでしょう……」


 いきなりそんな話を振られても、武具をカスタマイズする経験がないウィルにはどうしたらいいかわからない。


「う~ん、そうですね……」


 ウィルの状況を表情から読み取ったのか、カーネルは指を立ててある提案をする。


「では、ウィルさんは普段はどのように盾を使われますか?」

「どう……とは?」

「最前線でウィルさんが盾を構える時、どういう心構えで盾を構えているかです」

「それなら決まっています」


 心構えを問われたウィルは、淀みなく答える。


「俺自身が盾となって皆を守ることです。皆を守るために、全ての攻撃を受け止めるつもりの覚悟でいます」

「な、なるほど……」


 ウィルの迫力に圧されながらも、カーネルは得心がいったように大きく頷く。


「ですが、いかにもウィルさんらしい理由だと思いました。それと、盾の方針も決まりました」

「ほ、本当ですか?」

「はい、盾の形はこのままが一番ですね。ただ、今のままだと強度に不安があるので、そこを少し上げられたらなと思います」

「そ、それは嬉しいんですけど……その、生憎とウチにはそんなに持ち合わせが……」

「ハハハ、それについてはご心配には及びません」


 恐縮するウィルに、カーネルはカラカラと笑ってある事実を話す。


「実は今回の鍛冶仕事の報酬は、先にギルド長からいただいているんです」

「えっ、本当ですか?」

「はい、危険を顧みず、誰も受けてくれなかったマグの実を取りに行ってくれたこと、グリフォンに関する有益な情報を持ち帰ってくれたことへの恩赦だそうです」

「そ、それはありがたいんですけど……」


 通常通りの報酬に加え、鍛冶の修繕費用まで持ってくれるという話はありがたいが、ウィルの表情は晴れない。


「もしかして、それって遠回しに俺たちにグリフォンの大規模討伐クエストに参加しろとかって言ってませんかね?」

「ハハハ、そんなことないですよ。ギルド長は何よりも自主性を重んじてくれますから、討伐クエストの参加は、どうぞご自身で判断なさってください」

「そ、そうですか……」


 本当にギルド長による好意でやってくれたと知り、ウィルは心底安心したように嘆息する。


「フフッ、ウィルさんはとてもいいリーダーですね」

「だろ? ここまでのお人好しは冒険者の中にはそうはいないぜ」


 カーネルの言葉に、ロゼが何度も頷いてウィルの肩をバシバシ叩く。


「まっ、そんなわけだ。ウチのお人好しがそう簡単に死なないように、とびっきりの盾を用意してくれ」

「承りました」


 カーネルは恭しく一礼して見せると、分厚い手袋を装着して竈の中か大盾を取り出す。

 蒼い炎で焼かれたからか、青白く光を放つ大盾を机の上に置いたカーネルは、手にした小槌を振り下ろす。


 小槌が大盾にぶつかると、コーンという甲高い音が室内に響き、その音を聞いたカーネルは満足そうに頷く。


「うん、やはりこの盾はとてもいいミスリルが使われていますね」

「そう……なんですか?」

「はい、専門の職人によるとても丁寧な仕事がされています。これなら修繕もすぐに済みそうです」


 そう言ってカーネルが二度、三度と小槌を振り下ろす度にコーンという澄んだ音が響き、大盾の表面に波紋が広がる。


「あっ……」


 そこでウィルは大盾の表面に起きている変化に気付いて声を嗅げる。


「凹みが……戻っていく」

「気付かれましたか?」


 カーネルは耐熱性の分厚い手袋で大盾の歪んでいる個所を指差すと、そこを中心に三角形を描くように周りの部分を小槌で叩く。

 すると、三点から発生した波紋に押し出されるように凹んだ部分が上へと持ち上げられ、あっという間に元の形に戻る。


「す、凄い……」

「これが魔導鍛冶が普通の鍛冶とは違うところです。ミスリル合金のような魔法の力がかけられた盾は、こうして魔法の力で直すことができるんです」


 説明しながら小槌を振り下ろしていくうちに、大盾は緩やかなカーブを描く本来の姿へと戻る。


「ふぅ、これで見た目だけは元に戻りました」

「だけ……ということはまだ完了ではないんですね?」

「はい、今は形を整えただけで中身が整っていないのです。ここからさらに叩いて盾を構成している物質を均等に、追加の素材で強度を加えていきます」

「なるほど……」


 頷いてみたものの、実際はよくわかっていないウィルを尻目に、カーネルは戸棚から追加の素材となるものを次々と取り出していく。


 丸い粒状となっている金属や瓶に入った粉状のもの、さらには植物の葉やらドロッと粘性の高い液体を取り出しながらカーネルはウィルたちに向かって笑いかける。


「このまま見ていただいても構いませんが、完成までにはまだお時間をいただきます。ですので、よかったら町を見てきたらどうでしょう? 慣れていないとこの暑さはかなり堪えますでしょう?」

「そう……ですね」


 汗でぐっしょりと濡れている上着を摘まんだウィルは、隣で自分を仰いでいるロゼを見る。

 北方の出身であるロゼは、ウィルより寒さより強いが代わりに暑さには弱いようで、彼以上に汗が浮かんでいるのが見える。


 それを見たウィルは、瞬時に判断して申し訳なさそうにカーネルに頭を下げる。


「ここはお言葉に甘えさせてもらいます。こちらから見学を申し出たのに申し訳ないです」

「いえいえ、お気になさらないで下さい。完成はおそらく明日の日暮れ前ぐらいになると思いますので、その頃にまた訪ねて来て下さい」

「はい、よろしくお願いします」


 深々と頭を下げたウィルは、汗を拭いていたロゼに外に出るように促して工房を後にした。

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