普通の冒険者、新たな決断へ
――翌日、ウィルは再びロゼと一緒にカーネルの工房へと向かっていた。
その手には昨日のクエストで手に入れたマグの実があり、今日はこれでウィルの盾の修繕を依頼するつもりだった。
「くああぁぁ……」
「おっ、珍しいな。リーダーがそんな大あくびをするなんて」
普段から規則正しい生活をしているウィルの滅多に見ない姿に、ロゼは心配そうに上から覗き込む。
「大丈夫か? 昨日、あんまり眠れなかったのか?」
「まあ、ちょっとね……ギルドのお偉いさんたちを前にしてのクエスト報告なんか初めてだったからさ……目に見えない疲れが溜まっていたのかも」
「ハハハ、確かに普段のあたしたちには縁のない話だからな。犠牲者がリーダーだけで助かったぜ」
「……そうだね」
ロゼの皮肉に、ウィルは苦笑を漏らしながらもう一つあくびをする。
「……実を言うと、昨日、ギルド長たちにあるお願いをされたんだ」
「厄介ごとか?」
「近日中にグリフォンの大規模討伐クエストを行うから、俺たちにも参加してほしいってさ」
「了承したのか?」
「まさか」
ロゼの質問に、ウィルはゆっくりとかぶりを振る。
「俺たちの目的は各地を巡っておいしいものを食べることだ。ついでに人助けをすることもあるけど、それはあくまで「ついで」であって本意じゃない……そして何より、メイプルは当然、俺も大規模討伐クエストの経験がない」
普段受ける護衛クエストとは違い、大規模討伐クエストは他の冒険者と連携する必要が出て来るので、勝手が全く違ってくる。
前衛を務めるウィルは盾役として最前線に配置され、ロゼだけでなく後衛の三人もそれぞれの役割の場所に配置され、普段とは全く違う仕事を任されることになる。
「言うまでもないけど、グリフォンはとんでもない強敵だ。奴の脅威に怯える人を救いたいという気持ちもあるけど、それ以上に俺は皆を……仲間を失いたくないんだ」
「リーダー……」
ウィルの本音を聞いたロゼは、目を見開いて自分より年上の小さな青年を見る。
リーリエ同様、ロゼもまた仲間になる前のウィルのことは噂に聞いていた。
あの時はあえて口に挟まなかったが、ウィルたちが今のパーティーの形に収まるまで、それは色々あったものだ。
そんな経緯もあり、ウィルが仲間のことを特別に大切に想っているかをロゼはよく知っているが、それ故に思い切った決断ができないのを少し歯痒く思っていた。
だから少しでもウィルの背中を押すために、ロゼは彼に自分の想いを伝えることにする。
「リーダー……あたしはリーダーが決めたことなら、何処にでも付いていくからな」
「ロゼ?」
「だから、たまには自分の気持ちを優先させろって。仲間を想うのも大事だけど、新しいことに挑戦して経験を積むこともまた大事だろ?」
「あっ……」
「メイプルに似たようなこと言っておいて、自分がやらないのは話が違うだろ」
「……確かに」
ロゼに痛いところを突かれたウィルは、彼女の顔を見てしかと頷く。
「わかった。大規模討伐クエストに参加するかどうか、よく考えてみるよ」
「ああ、よく考えな。人生は選択の連続だからさ」
ロゼはニカッと白い歯を見せて笑うと、ウィルの背中を強めにバシッ、と叩いた。
魔女の館を思わせる魔導鍛冶の工房へとやって来たウィルは、ノックして扉を開ける。
「こんにちは、カーネルさん、いらっしゃいますか?」
「あっ、ウィルさん、それにロゼさんもいらっしゃい」
ウィルが声をかけると、部屋の奥で何か作業をしていたカーネルがやって来る。
紺色のガウンに鼻と口をすっぽり覆うようなマスクにゴーグル、そして手には手のひらサイズの小さな小づちという、いかにも魔導鍛冶師らしい出で立ちをしているカーネルは、ゴーグルとマスクを外してニッコリと笑う。
「昨日、冒険者ギルドから連絡がありまして、今日ウィルさんたちが訪ねて来るだろうとのことなので、仕事の準備をして待っていました」
「えっ、俺を待っていてくれたんですか?」
「はい、この間のお礼も兼ねてミスリル合金の盾の修繕、僕に任せてもらえませんか?」
「勿論です」
ウィルは大きく頷いて大きく傷ついた大盾と、深緑色のトゲトゲしたマグの実をカーネルに差し出す。
「カーネルさん、俺の盾をどうか直して下さい」
「はい、喜んで」
恭しく頭を下げて大盾とマグの実を受け取ったカーネルは、部屋の奥にある竈へと向かう。




