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普通の冒険者と、とっておきの一射

「チッ、マズイな……」


 振り返ると、爆発音を聞いたグリフォンがこちら目掛けて一直線に飛んでくるのが見え、ウィルは堪らず舌打ちをする。


 グリフォンの速度から見て、町に到着するより早く接敵することになると見たウィルは、自分の少し前を走っているリーリエに向かって叫ぶ。


「リーリエさん、支えますから一射お願いできますか?」

「ええ、よくってよ。ロゼ!」


 その一言で何をすべきかすべて理解したリーリエは、ロゼに向かって一本の矢以外の荷物を投げて渡し、ロウガに向かって叫ぶ。


「ロウガ!」

「ほい来た。戦場(いくさば)の神よ、天を穿(うが)導標(しるべ)の力を我に与えた給え!」


 ロウガが素早く詠唱を唱えると、彼が持つ杖が巨大な弓へと変貌する。


「ほれ、しっかりやれよ」

「わかってますわ。ウィル!」

「はい、いつでもどうぞ!」


 ロウガから自身の体の半分ほどもある大弓を受け取ったリーリエは、ウィルが構える盾の上に弓を横向きにして乗せる。


「いつもの盾と違いますから、勝手が違うかもしれませんけど……」

「その程度の誤差など全く気になりませんわ」


 ウィルの心配を一蹴したリーリエは、大弓に手にした矢を番え、全身で引き絞る。


「全く、エルフの妙技をこんなことに使うなんて……」


 文句を口にしながらもしっかりと狙いを定めたリーリエは、


「この借りは、ご馳走で勘弁して差し上げますわ!」


 自分の欲望を口にしながら矢を放つ。

 リーリエがいつも使う倍以上のサイズの弓から放たれた矢は、一筋の流星となって真っ直ぐグリフォンへと吸い込まれていく。


 次の瞬間、矢が直撃したグリフォンが大きくのけ反り、地面へと落ちていくのが見える。


「……やったか?」

「まだですわ。羽に穴を開けた程度では空の王者は止まりませんわ!」


 思わず足を止めようとするメイプルに、リーリエは注意を促しながら走り出す。

 その言葉通り、一度は落下しかけたグリフォンは、すぐさま飛び上がってウィルたちを狙うように突撃してくる。


「わわっ、来てます! リーリエさん、次の手はないんですか?」

「ありませんわ。今はとにかく、逃げることだけ考えなさい!」

「ヒッ、ヒイイイィィィ……」


 逃げるしか術がないと聞かされ、メイプルは悲鳴を上げながら必死に足を動かす。



 だが、ここまでずっと気力だけで頑張り続けてきたメイプルだったが、とうとう限界がやって来る。


「はぁ……はぁ……も、もう……駄目です」


 堪らず膝を付きそうになるメイプルだったが、そんな彼女にウィルが手を伸ばして支える。


「メイプル、しっかりするんだ!」

「に、兄さん、私はもう無理です。だから……」


 体力の限界に達したメイプルが諦めて膝を付こうとしたとき、ピイイィィッ! という目の覚めるような笛の音が響き渡る。


「な、何?」

「どうやら助かったようだよ」


 泣き腫らした顔のメイプルの頭を、ウィルはくしゃくしゃと撫でながら微笑む。


「町の方を見てごらん、町の方から援軍が来たみたいだ」

「えっ?」


 ウィルが指差す方向に目を向けると、スモークウッドの町中からグリフォンに向かって大量の矢が飛んでいくのが見える。

 矢の雨に晒されることになったグリフォンは、最初こそ抵抗しようとしていたが、やがて諦めたように踵を返すと、森の中へと消えていった。


「私たち、助かったの……ですか?」

「ああ、幸運にもね。後でギルドにお礼に行かないとな」


 町の見張り台に立つ人影に手を振ったウィルは、大きく嘆息して仲間たちに声をかける。


「皆、ひとまずお疲れ様。ギルドに報告したら今日はたらふく夕食を食べよう」


 その言葉に全員の喜びの声が重なり、パーティーは弾むような足取りで町の中へと入って行った。



 ※


 スモークウッドの町に戻ったウィルは、その足で冒険者ギルドへ行ってクエスト報告と共にグリフォンについての報告もした。

 その後は、ギルド長を交えての緊急会議が開かれ、陽が落ちてからようやく解放されたウィルたちは、その日は自炊することを諦めて酒場で大いに飲み食いして早々に就寝した。

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