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普通の冒険者と腹ぺこのなかまたち

 ランドが帯同している家族たちに野営する旨を伝えに行くのを見送って、ウィルは腰を下ろして準備に取り掛かる。


「さて、今日のメインはやっぱりこれだな」


 そう言って取り出すのは、先ほど仲間たちと協力して倒したコッコトリスの肉だ。


 一抱えもある巨大なコッコトリスの胸部の肉を取り出したウィルは、肉に切れ込みを入れ、表面をきれいに拭いて塩と皮を剥いたニンニクを満遍なく塗り込んでいく。


「ほらよ」


 黙々と作業をしているウィルのすぐ脇に、水の入った木桶が乱暴に置かれる。

 ウィルが顔を上げると、彼と一緒に前衛で戦う長身の女性がニコリと笑いかけてくる。


「ひとまず一杯だけ先に持ってきた。食材を洗うのに必要だろ?」

「うん、ありがとう。ロゼ」

「ヘヘッ、いいってことよ」


 お礼を言われて女性、ロゼは照れたように鼻の下を擦って笑うと、ウィルのすぐ隣に腰を下ろす。


「それじゃあ、リーダー。パパッと火を熾しちまうがいいか?」

「うん、お願い」

「あいよ」


 二つ返事で頷いたロゼは、立ち上がって近くの茂みに入ると、子供の頭部ほどの大きさの石を置いて即席の(かまど)を作ると、慣れた手つきで火を熾して大きくしていく。

 その間にウィルは汲んできてもらった水で食材を手早く洗い、野菜をひと口大に切って米と一緒に鍋に入れていく。


 一通りの食材の下ごしらえが終わる頃には、炎が十分な大きさになり、パチパチと薪が爆ぜる音が聞こえてくる。


「ほら、できたぜ」

「もうできたんだ。流石の早さだね」

「ヘヘッまあな。あたしが住んでた土地は寒くて火熾しは必須だからな……ほら、リーダーたち只人と違ってあたしのガタイ、デカいだろ?」


 そう言って照れ臭そうに笑うロゼの身の丈は、ウィルの頭一つ分以上に大きい。


「あたしたちバーバリアンは誰もが図体がデカいけど、別に寒さに強いってわけじゃないんだよ。だから生きるために火を早く興せるようになるのは必須なんだよ」

「そうなんだ。知らなかった」


 初めて知る情報に感心しながら、ウィルは米と肉、野菜が入った鍋を火にかけていく。


「よし、メインはこれでいいとして後は……」

「魚よ。せっかく水場の近くでキャンプするのだから当然でしょ」


 次のメニューを考えるウィルの前に、凛とした涼やかな声と共にビチビチと跳ねる魚が入った木桶が置かれる。


「水を汲むついでに何匹が捕まえてきましたの」


 そう言ってニヤリと笑うのは、陽光を受けてキラリと輝くアッシュブロンドを持つ眉目秀麗の女性だった。


「エルフの妙技をただの魚取りに使ったのですから、感謝して欲しいですわ」


 そう言って弓を射るジェスチャーをする女性の耳はウィルの耳より長く、彼女が森と共に生きる長命の種族であるエルフであることを示していた。


「どうかしら? これで何か作っていただける?」


 そう言って差し出されたエラから尾びれにかけて走る美しい虹色の帯を持つ魚を見て、ウィルが目を輝かせる。


「おおっ、いいニジマスですね。勿論です。ありがとうございます。リーリエさん」

「フフフ、お礼はよくってよ。それより、この後の夕餉のメニューは期待していますわ」


 リーリエと呼ばれた銀色のエルフは思わず見惚れるような優雅な笑みを浮かべると、自分の仕事へと戻っていく。


「……ったく、何だってんだ」


 食材だけ渡して去った仲間を見て、ロゼが呆れたように嘆息する。


「自分で食材を取って来たなら、たまには料理の一つでもしてみろってんだ」

「まあまあ、エルフは役職にでも就かない限り、料理をしないらしいから仕方ないよ」


 かつて見聞きした森の住民の特性を思い出しながら、ウィルはニジマスを手早く捌いて洗うと、開いた腹の中に香草を詰めていく。


「それに、リーリエさんも興味が出たらやるって言ってたから、その時が来るのをのんびり待つとしようよ」

「その時が来たら、あたしら全員くたばってるかもしれないけどな」


 千年以上は生きると言われている長命の種族の気まぐれに、期待するのは無駄だと察したロゼは諦観したように嘆息する。


「……まあ、いいや。それよりリーダー、あたしにメインのソース作りを教えてくれよ」


 リーリエと違って料理に興味津々のロゼは、両手に調味料の入った小瓶を手にしてはにかむ。


「今日は子供たちもいるだろ? だから子供向けの優しい味付けとか知りたいんだ」

「いいよ、それじゃあ分量を言ってくからお任せしていい?」

「任された」


 ロゼは嬉しそうに頷くと、ウィルの指示を仰ぎながら鼻歌交じりに調味料を混ぜていく。



 それからウィルたちが肩を並べて夕飯の準備をしていると、


「周囲に魔物払いの結界を張ってきました」

「これで今晩はゆっくり休むことができるぞ」


 周囲の安全の確保をしてきた残りの仲間が現れ、ウィルたちに話しかける。


「あっ、いい匂い。あっ、お魚もあるんですね」


 こんがりと焼きあがったニジマスを見て、ウィルと同じ金色の髪を綺麗に編み上げた美人というよりは可愛らしいという言葉が似合う少女が目を輝かせる。


「こんな対抗のある……せっかくですから味見を」

「こらっ、はしたないぞ!」


 焼き上がったニジマスへとそそくさと手を伸ばしてくる細い手を、ウィルは軽く叩いてガードする。


「メイプル、今日は俺たちだけじゃなくお客さんもいるんだからな。手が空いたなら、皆の分の食器の準備をしてくれ」

「は~い、もう兄さんは真面目なんですから……」


 唇を尖らせるウィルの妹のメイプルは、ぶつくさ文句を言いながらも荷物から食器を取り出していく。


「ふむ、今日も兄妹の仲が良さそうで何よりじゃな」


 食卓の準備が着々と進んでいくのを見て、満足そうに頷く巨大な影がウィルの正面に腰を下ろす。


「フフフ、まさか一日の終わりに皆と火を囲むことが、何より楽しみになるとはのう」

「以前は違ったのですか?」

「ああ、違ったとも。このロウガ、老いてもかつて最強と謳われた狼人族(ろうじんぞく)

の端くれじゃぞ」


 そう言ってニヤリと笑うロウガと名乗った男性の口には、鋭い牙がズラリと並ぶ。

 さらには全身を黒い毛に覆われ、頭頂部には特徴的な三角形の獣の耳が付いているロウガは獣人と呼ばれる亜人種で、その中でも狼の血を受け継ぐ狼人族と呼ばれる種族だった。


「かつては血で血を洗う戦いこそが唯一の友だったワシじゃが、今の友はもっぱらこれじゃな」


 そう言ってロウガは、歴戦の猛者を思わせる傷だらけの手に持った革袋を掲げ、ウィルに向かってニヤリと笑う。


「美味い酒を引き立ててくれる飯との出会いが、ワシを変えてくれたんじゃ」

「ハハッ、おいしいご飯は人生を豊かにしてくれますからね」

「全くじゃ、というわけで今日の飯も大いに期待しておるぞ」

「お任せを」


 革袋をグビリとあおるロウガに、ウィルは恭しく頷きながら夕食の準備を進めていった。

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