普通の冒険者はとってもタフネス
予定より早く森を出たため、ウィルたちはまだ明るいうちにスモークウッドの町が見えるところまでやって来た。
「ふぅ……ここまで来れば大丈夫だろう」
「だな。帰りはまともな魔物と出会わなかったのも大きかったな」
ウィルと並んで先頭で駆け抜けたロゼは、前衛同士労うように拳を合わせる。
「あたしたちはまだ余裕あるけど、後ろの連中はどうかな?」
「そうだね」
額の汗をぬぐったウィルは、少し遅れてやって来る後衛の三人へ声をかける。
「ほら、皆もう少しだぞ」
鎧姿に大盾、という重装備、さらには採取したマグの実を持っているにもかかわらず、まだ体力に余裕がありそうなウィルは、既に体力の限界に近そうなメイプルに手を伸ばす。
「メイプル、あと少しだから頑張れ」
「は、はい……わかって…………ます」
愛用の杖以の荷物を全て預けているメイプルは、ウィルの手を取りながら悔し気に歯噛みする。
「すみません、私……また足を引っ張ってますね」
「だから気にするなって。メイプルにはメイプルの役割があるんだから」
「そうですわ……ウィルが異常な……だけですわ…………ふぅ」
荷物を抱えての失踪は流石に疲れたのか、汗で額に張り付いた髪を退けながら、リーリエが呆れたように呟く。
「その装備で走り続けてまだ余裕があるなんて、ウィルの体力が異常なのですわ」
「ハハハ、まあ子供の頃からずっと山の中を駆け巡ってましたからね」
「それだけではありませんでしょう」
謙遜するウィルに、リーリエが鋭い視線を向ける。
「こうして一緒に旅をする前に、わたくしはクエストでもないのに、完全装備で町の周囲を走り続ける異常者がいるという噂をよく耳にしましたわ」
「えっ、それってリーリエさんが兄さんに出会う前の話ですか?」
初めて聞くウィルの話に、疲れて限界だったはずのメイプルは目を輝かせてリーリエに尋ねる。
「リーリエさんと出会う前、兄さんはそんなことをしていたのですか?」
「ええ、その時のウィルは所属していたパーティーが解散した直後で、新たにギルドに申請したパーティー募集に誰からも声をかけられずに一人で鍛錬を重ねていましたの」
「兄さんが……」
「その無尽蔵の体力は冒険者ギルドでは随分と話題になりましたけど、それでもウィルに声をかける者はいませんでしたわ」
その理由は、ウィルが仲間たちに求めるものにあった。
「無理もありませんわ。普通の冒険者は討伐クエスト、ダンジョン攻略で手っ取り早く稼ぎたいのに、各地を回る放浪クエストをメインとするパーティーを探していたんですもの」
「でも、今はリーリエさんや皆さんがいる」
「フッ、そうですわね。わたくしたちも冒険者としては変わり者ということですわ」
世界を巡っておいしいものを食べる。
ウィルとパーティーを組んだ目的を思い出したリーリエは小さく嘆息する。
「たまにはそんな気まぐれも悪くありませんわね……」
自嘲気味に笑って呆れながら振り返ったリーリエは、
「――っ!? いけませんわ!」
エルフ特有の人より優れた視界に移る影を見て、大声で叫ぶ。
「グリフォンが来ますわ! 各自、警戒を厳に!」
「グ、グリフォン!?」
最も出会いたくない名前を聞いたメイプルが顔を青くさせる中、ウィルたちは素早く戦闘態勢に入る。
「リーリエさん、グリフォンが来るまであとどれくらいですか?」
「奴がこちらに気付いているならすぐですわ。十も数えないうちに接敵しますわ」
「わかりました……」
ウィルは後ろを振り返ってスモークウッドの町との距離を目算で測ると、素早く方針を決めて指示を出していく。
「何よりも優先すべきは町の退避で、辛いでしょうけどもうひとっ走りしましょう。後は、ロウガさん」
「うむ、町への連絡じゃな」
最後に優雅な足取りで現れたロウガは、懐から長い紐が付いた筒状の道具を取り出す。
「それっ!」
筒状の道具に付いた紐を強く引っ張ると、筒の先端から光る玉が発射され、上空で弾けて大きな爆発音を響かせる。
「ほれ、これで町の連中に報せが届くが、同時にグリフォンにも気付かれたぞ」
「ええ、皆、ひとまず全力で町まで走るんだ!」
恐怖で身を固くするメイプルの背中を叩いて押し出しながら、ウィルはパーティーの一番背後へ回って駆け出した。




