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普通の冒険者と森の異変

 芯から温まる昼食を食べたウィルたちは、再びマグの実を求めて琥珀の森の中を巡っていく。


「ロゼ、そっちに行った!」

「はいよ、任せな!」


 余裕の声で応えるロゼに向かって、地面を這うように三つの四足歩行の獣が迫る。


「ガルルル……」


 唸り声を上げながらロゼへと襲い掛かる獣に対し、


「おらああああぁぁ!」


 気合の雄叫びを上げながらロゼが斧を振るって、三つの影を同時に吹き飛ばす。


「ハッ、バンディットウルフ程度、あたしの敵じゃないぜ!」


 木に叩きつけられて動かなくなった獣、バンディットウルフには目もくれず、ロゼが周囲を威嚇するように大声を上げると、ウィルたちを囲んでいた気配が一つ、また一つと消えていく。



「……去ったようですわね」


 安全が確保されたところで、木の上で弓を構えていたリーリエが降りて来て安堵のため息を吐く。


「行きの道でも思いましたが、ただの森にしては魔物の数が多いですわね」

「ふむ、おそらくじゃが、これもグリフォンの影響かのう」


 思い当たる節があるのか、ロウガが顎をさすりながら可能性を示す。


「森の中心の一番いい場所をグリフォンの奴が占拠しているから、他の者が端に追いやられているのじゃろう」

「あり得ますわね。バンディットウルフがこんな所にまで現れるとなると、町の者がマグの実を取りに来るなんて到底無理な話ですわ」


 ロウガの話に賛同しながら、リーリエは悲し気に目を伏せる。

 そこにはバンディットウルフに襲われたのか、ホトの木の無残な死体が転がっていた。


「魔物とはいえ、戦闘能力は皆無に等しいホトの木が暮らせないほど、この森は荒んでいるようですわね」

「それも全部グリフォンの所為……なんですよね」


 傷つき、使い物にならないマグの実を握りながら、メイプルが泣きそうな声を上げる。


「図書館にあったスモークウッドの歴史には、人々は琥珀の森と上手に共存していたとありました。それがどうして……どうしてグリフォンがやって来たのでしょう」

「それは現在、スモークウッドの冒険者ギルドが総出で調査しているみたいだよ」


 パーティーのリーダーとして、重要な情報は既に共有しているウィルは、感情的になりかけているメイプルを落ち着かせるように静かな声で話す。


「調査の結果は近日中に出るという話だから、それまでは下手に憶測を働かせるのはよそう」

「……わかりました」


 ウィルの冷静な声にメイプルは一応の納得を見せて頷くが、まだ完全には納得していないのか、兄の顔を下から覗き込みながら尋ねる。


「それで、兄さんは……」


 メイプルがウィルに何かを問いかけようとした瞬間、頭上を巨大な影が駆け抜け、遅れてやって来た突風で木々が激しく揺れる。


「ヒッ!」

「どうやらグリフォンが戻って来たようだな」


 怯えるメイプルを抱いて背中をさすりながら、ウィルは素早く仲間たちと目配せする。


「これ以上は危険です。速やかに町に戻りましょう」

「賛成じゃな。何しろワシ等には碌な手立てもないからな」

「…………えっ?」


 ロウガの一言に、メイプルは信じられないといった様子で顔を上げる。


「えっ、兄さん、さっきの話って……」

「まあ、何だ。これはその……アレだよ」


 ここまで来たら取り繕っても仕方ないと、ウィルは正直に白状する。


「噓も方便というやつだよ。だってこうでも言わないと、メイプルだって怖くて動けなかっただろ?」

「そ、それはそうですけど……」

「まあ、そんなわけだ」


 戸惑うメイプルの肩を励ますように叩いたウィルは、ニコリと笑って森の入口を指差す。


「幸いにも俺たちはまだグリフォンに見つかっていない。だから……」

「だから?」

「今のうちに尻尾を巻いて全力で逃げよう。何、奴は自分の寝床に行って一休みするはずだから、急いで帰れば見つかることもない……はずだ」

「ふ、不確定要素が多過ぎます!」


 全く頼りにならないウィルの言葉に悲鳴を上げながらも、メイプルは仲間たちと一緒にスモークウッドの街に向けて一目散に逃げだした。

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