普通の冒険者、採取クエストへ向かう
――翌日、冒険者ギルドでマグの実の採取クエストを受けたウィルたちは、再び琥珀の森へと戻って来た。
「うぅ、まさかすぐにこの森に戻ってくるとは……」
相も変わらず薄暗い森に入ったところで先日の恐怖を思い出したのか、メイプルは不安そうに隣に並ぶウィルに話しかける。
「兄さん……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。いいかい? 今日のクエストは言うほど危険じゃないんだ」
スモークウッドの冒険者ギルドで買った地図を広げながら、ウィルはメイプルに今回のクエストについて説明する。
「改めて確認するけど、今回のクエストはマグの実の採取だ。これを一つでも多く集めること戦闘の予定もないから盾はこれでも大丈夫なんだ」
そう言ってウィルは、背中に背負っているスチール制の大盾を示す。
「借りものだから壊したくないというのもあるけど、この盾は魔法の援護が通らないから、戦闘は可能な限りなしの方向でいこう」
今回はあくまで採取がメイン、そう念押ししてウィルはメイプルに尋ねる。
「ところでメイプルは、マグの実について何か知ってる?」
「あっ、はい……えっとですね」
おとがいに手を当てて、メイプルは予習してきたことをウィルに話す。
「確か……深緑色したトゲトゲの丸い実ですよね? こぶし大ほどの大きな実で、外皮は硬く、中に魔力を帯びた可燃性の油が詰まっている……ですよね?」
「うん、大体あってる。じゃあ、マグの実はどうやって成っているかわかる?」
「それは……すみません、わかりません」
クエストを受ける前にはしっかりと予習を行うメイプルは、申し訳なさそうに肩を落とす。
「町の図書館で文献を漁ってみたのですが、鍛冶師の町というだけあって鍛冶に関する書籍は豊富だったのですが、マグの実の外見以外については……」
「そうか、そいつはよかった」
「えっ?」
不勉強を怒るどころか喜ばれることに、メイプルは怪訝な表情で兄を見る。
刺さるような視線を向けられたウィルは、苦笑を漏らしながら道の先を指差す。
「ま、まあ、それは見てのお楽しみということで。最初の採取場所は比較的ここの近くにあるから、そこを中心に数か所巡って日暮れ前には町に戻るつもりだよ」
「じゃあ、グリフォンは?」
森に入ることの最大の懸念点について、メイプルは真剣な表情で質問する。
「もし、再びグリフォンが現れたらどうするのですか?」
「注意しながら進むけど、この前のグリフォンの縄張りだった池までは行かないよ。それに、万が一出会った時の対策もしてある」
そう言ってウィルが頼りになる仲間たちに目を向けると、三人の仲間たちが自信のある笑顔を見せる。
頼りになる仲間たちに笑顔で応えたウィルは、メイプルに笑いかける。
「何より昨日の夜半にグリフォンが何処かに飛び立ったという報告もあるから、少なくとも奴が戻ってくるまで接敵する可能性はないよ」
「そ、そうなんですね」
「そういうこと。今日のクエストはメイプルにとってもいい経験になるはずだから、怖がらずに楽しく行こう。冒険者にとって色んな経験を積むことは何より大事だからさ」
「そう……ですね」
グリフォンという脅威がないことを確認したメイプルは、大きく深呼吸を一つしてニコリと笑う。
「皆さん。至らないところばかりの私ですが、精一杯付いていきますのでどうぞよろしくお願いいたします」
「勿論だ。何があってもあたしたちが守ってやるから安心しな」
「植物のことなら、わたくしが手取り足取り教えて差し上げますわ」
「目だけでなく、耳や鼻、全身で森の息吹を感じるんじゃ。その全ての経験が、いずれメイプルの血肉になるじゃろうて」
素直に頭を下げるメイプルに、経験豊富な先輩たちが心強い言葉を投げかける。
パーティーの空気が良くなったことを察したウィルは、周囲の地形を確認して仲間たちに声をかける。
「そろそろ最初の目的地が見えて来ると思うから、各自例のアレの準備を忘れずに」
「例の……アレ?」
そんな話は聞いていないと小首を傾げるメイプルに、ウィルは人差し指を口元に持って行ってウインクして見せる。
「言ったろ? 見てのお楽しみだって」
その笑顔は、いたずらを思い付いたような子供のように無邪気なものだった。




