普通の冒険者、困ってる人のために立ち上がる。
「…………ゴクリ」
時に涙しながら、本当に幸せそうに雑炊を食べるカーネルを見て、食べることが大好きなウィルの仲間が黙っていられるはずがない。
まだ鍋の中身がたっぷり残っているのを確認したロゼは、遠慮がちにウィルの肩を叩く。
「な、なあ、リーダー……」
「うん、そう言われると思ってたよ」
ロゼからおねだりされることを読んでいたウィルは、用意していたもう一つ器に雑炊を盛り付けて彼女に差し出す。
「はい、熱いから気を付けてね」
「わかった……ヘヘッ、いただきます!」
手を合わせて感謝の意を示したロゼは、体の大きさの割に小さな匙を器用に使って雑炊を掬って頬張る。
「はふっ、はふっ、なるほど……確かにこいつは胃に優しい料理だ」
コクコクと何度も頷きながら、ロゼは匙を使って雑炊の感想を口にする。
「基本は薄い塩味だけだけど、鶏肉と野菜の旨味が加わっているから決して単調な味になっていないし、鶏肉が下茹でしてあるから全然油っぽくなくていくらでも食べられるな」
「こいつは元々、病人や胃腸が弱った人のための料理だからね。それでもおいしく食べられるようにと、色々改良してみたんだけど……どうかな?」
探るようにロゼに尋ねると、彼女は親指を立ててニカッと笑う。
「最高だ。病人じゃなくても、二日酔いの朝とかにも最高だと思うぜ」
「……そうかもだね」
できるなら、普段から飲んでほしくないんだけどな。何て心の中で思いながら、ウィルはようやくひと息吐いた様子のカーネルに尋ねる。
「カーネルさん、長い間食事を抜いていたみたいですけど、一体何があったのですか?」
「……はい、実に単純でお恥ずかしい話ですが、お金がなくて食べ物が買えなかったんです」
「それは……仕事がなくて?」
「というより、仕事ができなくてですね」
神妙な顔で頷いたカーネルは、両手を組んで自分について話す。
「実は僕、鍛冶師の中ではかなり特異な鍛冶師なんです」
「特異な?」
「はい、魔導鍛冶師というやつでして、単純な力ではなく魔法の力で鍛冶をするんです。だから僕みたいな人間でも、鍛冶師としてやっていけるんです」
そう言ってカーネルは町の男たちより幾分か細い腕を見せて自嘲気味に笑う。
「なるほど……それで、魔法鍛冶師とは普通の鍛冶師とどう違うのですか?」
「単純な話です。僕たちは、魔法の武具の扱いに長けているんです。例えば、ウィルさんの持っている盾のような」
「えっ?」
「それってミスリル合金のタワーシールドですよね?」
「は、はい、そうです」
一発で盾の素材を言い当てられたことに、ウィルは目を真ん丸にする。
「あの……見てわかるものですか?」
「はい、ミスリル合金は表面に特有の模様が出ますから。ウィルさんの盾はとても綺麗な模様をしています。職人さんがとてもいい仕事をしてくれたんですね」
「そう……ですね。そうだと思います」
冒険者になってからずっと苦楽を共にしてきた相棒を褒められ、ウィルは笑みを浮かべて盾の表面をそっと撫でる。
「…………」
やはり多少値が張ってもこの盾を直したいと思うし、盾の素材を一瞬で看破したカーネルに託してみたいと思う。
ウィルはロゼに目配せをしてから、カーネルに改めて向き直る。
「カーネルさん、あなたの力でこの盾を直すことはできますか?」
「できます……が、今は無理です」
「今は?」
「はい、最初に言いましたが今の私は仕事ができないのです」
そう言ってカーネルは、今自分の身に起きていることをウィルたちに話した。
※
「思ったより面倒なことになったな」
カーネルの工房に寄った帰り、ロゼは彼から聞いた話を思い出しながら腕を組む。
「まさか鍛冶作業をするための火を熾すための火種がないとかな」
カーネルが仕事ができない理由とは、鍛冶の命ともいえる火を熾すための材料がないからというものだった。
普通の鍛冶とは違い、魔導鍛冶には魔法の炎を用意する必要があり、必要な道具の一つがマグの実と呼ばれる火種となる木の実だ。
「そのマグの実が、ここ最近現れるようになったグリフォンのせいで取れなくなったなんてな。奇妙なこともあるもんだな」
「そうだね……」
マグの実は、ウィルたちが抜けてきた『琥珀の森』で主に採れる木の実で、グリフォンが現れてから実の採取が思うようにできなくなってしまったという。
スモークウッドの町にはカーネル以外にも魔導鍛冶師が何人かいて、鍛冶師たちの組合から冒険者ギルドにマグの実の採取要請クエストを出してはいるが、グリフォンという脅威があるからか、未だに誰にも受注すらされていないという。
「それで……」
カーネルの工房を後にしてから、既にある場所に向かって歩いているウィルの背に、ロゼは敢えて質問する。
「リーダーはこれからどうするんだ?」
「決まってるよ」
ウィルはゆっくりと振り返ると、自分のなすべきことをロゼに告げる。
「冒険者ギルドに行って、マグの実の採取クエストを受ける。そして、カーネルさんに盾を直してもらおう」
「ヘヘッ、リーダーならそう言うと思ったぜ」
困っている人を見ると放っておけない。
決して長い付き合いではないが、ウィルの性格をよく知っているロゼは待ってましたと謂わんばかりにパチン、と指を鳴らしてニヤリと笑う。
「今日クエストを受注したとして出発は明日だろ……あっ、そうだ!」
何かを思い出したかのようにロゼはパン、と手を叩くと、ウィルにお願いするように流し目を送る。
「明日のお昼に食べたいものがあるんだけど……いいかな?」
そう言ってロゼは、ウィルに食べたい料理をリクエストとしながら冒険者ギルドに向かっていった。




