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普通の冒険者はとびきりのお人よし

 小さな煙突がついた小屋の中にトントン、とリズミカルな音が響き渡る。

 音の主は、小屋の中にあった小さな机の上で食材を切っているウィルだった。


「……ふぅ、こんなもんだろ」


 用意した食材を切り終えたウィルは、鍋で沸かした湯の中へ葉物の野菜、下茹でした鶏肉を入れていく。


「全く、リーダーもお人好しだな」


 部屋中に散らばった割れた陶器の破片を集めていたロゼが、呆れたように嘆息する。


「よく知らない人間に料理を振る舞うこともそうだけど、材料費を自腹切るとか変だろ」

「いや、仕方ないよ……だってこの家、何にもなかったし」


 男性が「腹が減った」と言って倒れたので、すぐさま期待に応えようとしたウィルであったが、この家には干し肉の破片が僅かにあった程度でまともな食材が何もなかった。


 見たところ男性は数日まともに食事を摂っていないようだったので、ウィルは彼のために胃に優しい料理を振る舞うことにしたのだった。


「まあ、あわよくばこれで少しでも鍛冶の代金が安くなってくれると嬉しいかな……って思ったりはしてるけどね」

「というより、こいつに鍛冶ができるなんて思わないけどな」


 そう言ってロゼが見やる先には、ベッドの上で意識を失ったままの男性がいる。


「一応道具は揃ってるみたいだけど、あんな細腕で槌なんか振るえるのか?」


 そう言ってロゼが眠っている男性の手を掲げるが、その手はお世辞にも鍛えているとは言えない。


「こいつに依頼したら、肩身の盾が跡形もなくなるんじゃないか?」

「それは……わからないけど、どちらにしても困っている人を放っておけないよ」

「全く……お人好し過ぎるだろ」


 ウィルの答えに、ロゼは再び大きく嘆息して片付け作業へと戻る。


 だが、呆れた声とは対照的に、ロゼの顔には笑顔が浮かんでいる。

 それは、自分たちパーティーのリーダーがウィルで、このお人好しに付いてきてよかったという笑みだった。


「優しいだけじゃなくて、何より料理が上手いのが最高だ」

「えっ、何か言った?」

「……何でもないよ! そんなことより、作るならあたしたちの分もついでに用意してくれよな」


 ついでに自分の分の食事も所望したロゼは、鼻歌を歌いながら盛大に散らかった部屋を手際よく片付けていった。



 それから程なくして、小屋の中に鶏肉の出汁が効いたいい匂いが立ち込めはじめる。


「うっ、ううっ……」

「あっ、起きた」


 食欲をそそる匂いにつられたのか、男性が意識を取り戻したのを確認したロゼが目が合った彼に話しかける。


「最初に言っておくがあたしたちは怪しいものじゃない。客としてここに来たけど、倒れたあんたを介抱して、部屋を元に戻して、さらにはメシを食わせてやろうという最高にイカれたお人好しだ。いいな?」

「えっ? あっ……」


 ロゼに言われて、男性は自分がベッドの上で寝ていたことに気付き、周りを見て自分の置かれた状況を理解する。


「あっ、その……ありがとうございます。僕はこの工房の主でカーネルといいます」

「……マジかよ」

「えっ?」

「何でもない。とにかく少し待て。今、ウチのリーダーがメシ作ってるからよ」


 呆然としているカーネルを放っておいて、ロゼはウィルへと声をかける。


「リーダー、目を覚ましたぜ」

「わかった。こっちもできたよ」


 ロゼの呼ぶ声に、鍋を持ったウィルが現れてカーネルに話しかける。


「勝手にお邪魔してすみません。お加減はいかがですか?」

「こちらこそ助けていただきありがとうございます。あの……」

「あっ、はい、そう言えば名乗ってませんでしたね」


 ウィルはロゼと並んでカーネルに自己紹介をする。


「俺はウィル、こちらは仲間のロゼ。今日はカーネルさんに鍛冶の依頼をしに来たのですが……ひとまずご飯にしましょうか?」


 そう言ってウィルは、カーネルの前にもくもくと湯気が立ち上がる鍋を差し出す。


「久しぶりの食事なら胃に優しいものがいいと思ったので、雑炊を作りました」


 そう言って匙を使って鍋の中を器によそったウィルは、別の匙と一緒にカーネルに差し出す。


「どうぞ、お熱いので気をつけて下さいね」

「ああ、ありがとうございます」


 深々と頭を下げて器を受け取ったカーネルは、何度か「ふーっ」と息を吹きかけて冷ましてから雑炊を口にする。


「はふっ、はふはふっ……」


 十分冷ましたつもりでも熱かったのか、カーネルは必死に口に空気を送りながら雑炊を咀嚼し、ゆっくりと嚥下する。


「お、おいしいです」

「それは何よりです。たくさん作ったので、よかったらおかわりもして下さいね」

「はい、そうさせてもらいます」


 カーネルは何度も頷きながら、雑炊を貪るように食べていく。


「あ、あの……おかわりもらってもいいですか?」

「ええ、勿論です」


 器を受け取ったウィルは、再び雑炊をよそってカーネルに渡す。


「どうぞ、まだ熱いので気をつけて下さいね」

「はい、ありがとうございます」


 その後もカーネルは「おいしい」と何度も口にしながら、ウィルが作った雑炊を食べていく。

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