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普通の冒険者、鍛冶の町を歩く

 ――翌日、ウィルはロゼと肩を並べてスモークウッドの町の中を歩いていた。


「町の名前から何となく想像していたけど、随分と煙突の多い町だな」


 そう言って見上げるロゼの目には、もくもくと煙を吐き続けるいくつもの煙突が見える。


「全部……というわけじゃないけど、流石は鍛冶の町って感じだね」


 煙突の説明をしながら歩くウィルの耳には、カンカンという職人が鉄を槌で打ち付ける音が聞こえて来る。


 スモークウッドは鉄が豊富に取れる鉱山のふもとにあり、鍛冶の町として知られている。

 住民の多くは鉱夫だが、続いて鍛冶師、もしくは鍛冶師を志す見習いが多く、町を歩けば筋骨隆々のたくましい男性たちの姿がよく見て取れた。


 周囲を峻険な岩山に囲まれてはいるが町の中はよく整備され、煙突の数は多くとも決して煙たいという印象はない。


「あの煙突も、他の家に迷惑をかけないように完璧に計算し尽されているらしいよ」

「どれどれ……」


 ロゼは鼻をスンスン、と鳴らして周囲の匂いを嗅ぐ。


「完全……とはいかないけど、確かに殆ど臭いはしないな。もし町全体が煙臭かったら、ロウガなんかすぐに出ていっただろうしな」

「だろうね。ロウガさんの鼻は俺たちとは比べ物にならないからね」


 そう言うロウガは、メイプルとリーリエといった後衛を担当する三人で、ウィルたち前衛とは別行動で買い物に出ている。

 次のクエストこそまだ決まっていないが、冒険者たる者、いついかなる時も次の冒険に備えることは当然だった。


 冒険での必需品の買い物をロウガたちに任せ、ウィルたちは酒場の店主から聞いた鍛冶屋を目指していた。


「しかし、改めて見てもヤバイな」


 ウィルの背中にくくりつけられた大盾を見て、ロゼが苦笑を浮かべる。


「これを直せって言われる鍛冶師がどんな顔をするか見ものだぜ」

「ランドさんのクエスト報酬があるからある程度はどうにかなるけど……値段によっては新品の購入も考えないとね」


 そう言ってウィルは哀愁を漂わせる顔を浮かべる。


 酒場の店主にはできるだけ安価で仕事を請け負ってくれる人を紹介してもらったが、ほぼ平面のない悲惨な状態になった盾を見たら、値段交渉の前に断られるかもしれない。


「できれば、この盾を修理したいけどね」

「親父さんの形見……なんだっけか?」

「うん、後は素材の一部にミスリルが使われているらしいから、魔法の通りがいいんだ」

「じゃあ、尚更その盾を直さないとな」


 普段からウィルが自身の盾を大事に扱っているのを知っているロゼは、彼を元気づけるように笑顔を見せる。


「いざという時の交渉はあたしに任せてくれ」

「うん、お願い」

「あたしが力を見せてやれば、大抵の奴は頷くからな」

「…………くれぐれも穏便にね」


 ウィルは「どうか何も起きませんように」と人知れず願いながら、鉱夫たちでにぎわう町を歩いて行った。



 やたらと坂道が多いスモークウッドの町を上へ下へと歩き、ウィルたちは紹介された鍛冶屋までやって来た。

 指定された鍛冶屋は、スモークウッドの町のかなり奥にある赤い急斜面の屋根に、小さな煙突が一つある工房よいうよりは魔女の家を思わせる小さな小屋だった。


「ここかな?」

「そうみたいだけど……本当にここか?」

「多分……間違いないはずだけど」


 ウィルは手にした地図に目を落としながら現在地を確認する。


「うん……間違いない」


 豪快な見た目の割に、繊細な地図を描いてくれた店主の顔を思い浮かべながら、人は見た目によらないとウィルは思う。

 だから今回も小屋の見た目で判断するのはよくないと思ったウィルは、ひとまず訪ねて話をしてみようと考える。


「とにかく行ってみよう」


 ロゼにそう提案して足を踏み出したところで、


「――っ!?」


 小屋の中から大きな音と共に複数の陶器か何かの割れる音が聞こえて来て、ウィルは反射的に身構える。


「今のは……」

「わからねぇ、だけど何かあってからじゃ遅い」

「そうだね。急いで確認して臨機応変にいこう」


 簡単に打ち合わせをした二人は、臨戦態勢を維持しながら小屋へと近付く。

 木製の簡素な小屋の扉の左右に張り付いたところで、ウィルがロゼに向かって指を三本立てる。


 三……二……一……と指の数を減らしていき、ゼロになったところでロゼが動く。


「おらぁ!」


 勢いよく扉を蹴破ってロゼが室内へと飛び込むと、透かさずウィルが彼女をカバーできるように中へとなだれ込む。

 そうして飛び込んだ二人の目に、部屋の奥で棚の下敷きになって倒れている人影を発見する。


「ロゼ!」

「わかってる!」


 ウィルの声には素早く反応したロゼは、倒れている棚を軽々と持ち上げて倒れている人を助け起こす。


「おい、大丈夫か!?」

「うぁ……あっ……」


 紺色のゆったりとしたガウンに身を包んだ男性が震える手で伸ばした手を、ロゼは安心させるようにしっかり掴んで耳元で叫ぶ。


「状況だけ素早く教えてくれ。賊は何人だ? 誰かに恨みを買っていたり、金目のものを盗られたりしてないか?」

「だ、大丈夫……ここ……僕……一人…………」

「そうか……」


 ひとまず戦闘の心配がないことを確認したロゼは、周囲を警戒しているウィルに安全なことを伝えて再び倒れていた男性へと向き直る。


「それで、一体何があった? あたしたちにできることはあるか?」

「は……」

「は?」

「腹減った……」


 そう一言だけロゼに告げた男性は、こと切れたように意識を失った。

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