ダブルデート(中編)
店主の許可を得て着席した俺達はメニューを確認するが、三種類しか無い。
「悪いけど、宣伝の場だからメニューはこれだけだ。店では季節限定や期間限定も提供してるから、良ければ足を運んでくれ」
そう言って店の名刺を渡される。
肝心のメニューは、つけめん・味玉つけめん・特製つけめんとなっている。チャーシューとかのトッピングが欲しければ特製を注文しろって事のようだ。
「じゃあ俺は特製つけめんの並盛りで」
雪華「あたしも同じのを」
陽翔「んじゃ俺も同じのをお願いします」
笹嶋「あたしは特製つけめんの少盛りでお願いします」
店主「あいよ!特製並3に少1ね」
注文を終えて、料金を支払ったら陽翔が声をかけてきた。
「広也が並なんて珍しいな。特盛りを頼むと思ったけどな」
「店主さんには申し訳ないけど色々食べたいから抑えただけだよ」
「あ、すまん。発言に気を付ける」
店主「美味かったら店に来てくれな!」
そう言って流してくれた。
「笹嶋さん、良ければコレ使って。はい雪華も」
注文したのが出来たので、そう言って持参していた紙エプロンを二人に渡す。
「「ありがとう」」
特製つけめんの内容は、白菜ともやしの野菜、チャーシューが厚切りと薄切りの二枚ずつの計四枚、味玉、メンマ、刻みねぎ、のりとなっている。
つけ汁は濃厚だけど後味あっさりといった感じだ。麺は太麺で、途中でしょう油差しに入れられた柑橘類のしぼり汁で味変して楽しめる。俺はつけ汁もスープ割りしての完食をしてしまった。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
全員食べ終えたので屋台から出る。外の様子がわかるから気付いていたけど、行列が出来ていた。ちなみに屋台は列整理も含めた四人体制で営業している。
「うまかったな。行列前にも入れたしラッキーだったな」
「ああ。出来るまでの間スマホで店の情報見たんだけど人気店らしいぞ?」
「そうなの?」
「うん。ほら」
そう言いながら笹嶋さんにスマホの画面を見せる陽翔。結構打ち解けてきたみたいだな。
その後もサイコロステーキや唐揚げ、笹嶋さんと雪華はカレーも食べつつ過ごし、今はご当地サイダーを飲みながらまったりタイムだ。
笹嶋「どうして二人はカレー食べないの?」
「実はな、内宮家には怖い家訓があるんだよ。だから、俺も陽翔も外出先でのカレーは食べないんだ」
笹嶋「何それ!気になる」
「舌に残るタイプの辛さのある料理を食べると“痔”になるっていう家訓なんだ。それ抜きにしても俺と陽翔は辛いの駄目だけどね」
ウンウンと隣で頷く陽翔。
笹嶋「ワサビやカラシも駄目なの?」
「それは平気、むしろ好き。駄目なのは唐辛子やスパイス系のやつだね。ワサビやカラシとかはツンと鼻に抜ける一瞬の辛さでしょ?それ以外は舌に残るじゃん?それが駄目なの」
笹嶋「へえ。面白いね」
「何せ、家訓を破った俺と陽翔のじいちゃんは痔の手術したからな」
陽翔「そうそう。親戚中で笑ってたもんな!あの頃は意味がわからなかったけど、今となれば腹抱えて笑えるよ」
笹嶋「そうなんだね。雪華ちゃんも知ってたの?」
「うん。ひろ君から絶対に料理として出すなって言われてるし、家にもそういう調味料はほぼ無いよ」
そんな風にまったりしていたけど。
笹嶋「本当はスイーツも食べたいけど、おなかいっぱい」
「時間もまだまだあるし、近場でやってるマルシェを見に行く?入場料を払うわけじゃ無いしさ。少しブラつけば入るかもよ」
陽翔「いいなそれ!笹嶋さんどうかな?」
笹嶋「うん。行ってみよ」
一旦食フェス会場を後にすることになった。
マルシェとはフランス語で市場を意味するそうだ。なので本来は生鮮食材の販売に使うのが妥当なのだけど、オシャレな言い方を求める主催者側によってフリマの延長や○○市といったのもマルシェと言っていることが多い。
俺達が向かっているのはハンドメイド作品の展示即売会場になるのでマルシェでは無く、ものづくり市のほうがいいと思うんだけどな。
「ひろ君、あそこ」
雪華に服をクイクイされて指差す方向を見ると熱帯魚屋があるではないか!
「ごめん、少しの時間二人ずつの別行動でいいかな?」
陽翔「どしたよ?急に」
「あそこに熱帯魚屋があるから覗いてみたくて」
陽翔「お前も好きだねえ」
笹嶋「あたしも行く。ウーパールーパーいるかな?」
「笹嶋さんウーパールーパー好きなの?」
「うん、見るだけで飼育はしないけどね。売られている小さいのが好きなの」
「確かに、ヤツらは大きくなると見る人によってはグロさも出るし管理もあるからな」
「うん。だから見るだけ」
「なら皆で行くか!陽翔もいいだろ?」
「おう!」
こうして熱帯魚屋に入った俺達だったけど期待外れだった。笹嶋さんが見たかったウーパールーパーは販売されてなかったし、俺が求めるような珍しい種類もいなかった。規模で言うならホームセンターの売場に近いかもな。
ただ、餌の種類が充実していたのが意外だった。ブラインシュリンプの卵の缶入りがあったので購入しておいた。本当は秘めたポテンシャルがあるのかと思いながらマルシェへと向かうのだった。




