終業式前のあれこれ
水曜の通学前、俺は彩夏に声をかける。
「あやちゃん、もうすぐ夏休みだけど先生からおうちに持ち帰るように言われたのある?」
「うん、あるよ」
「全部持って帰ってきたのかな?」
「まだあるよ。でもね、重いから大変かも」
「じゃあ、お兄ちゃんが家まで運ぶから先生に今日と明日の夕方にお兄ちゃんと一緒に来ます、って伝えておいて」
「わかった!ありがと、おにいちゃん」
お礼を言う彩夏の頭を撫でてやる。
「広也、ありがとね」
「いいってことよ。母さんが行くと長話に付き合わされる可能性があるだろ。俺なら、その心配はないからな」
それにちょいと確認したいこともあるしな。
「あはははは」
苦笑する母さん。保育園とは違い保護者の人数も増えるから様々な人がいるんだよ、うん。
高校も午後は一コマの授業があって終わりになるからな、半分夏休みになっていると言っても過言では無いだろう。授業間の休憩時間は潮時表でいつ海に行くかを考えてたぜ!くうっ、早くガサガサがしたい!
学校から帰宅し、遊びに行かずに俺のことを待っていてくれた彩夏と一緒に小学校へと行く。
雪華は内宮班の女子会だそうで、別行動中だ。
小学校の来賓用の玄関に来て彩夏の兄である事を伝えて入校許可を貰う。
「あやちゃん、お兄ちゃんはここで待ってるから上靴に履き替えておいで」
「うん」
昇降口に向かう彩夏を見送り持参した綺麗な靴に履き替える。安全上、学校側のスリッパは利用しない。彩夏の重いだから大した事は無いだろうけど、一応ね。
少ししてトタトタと小走りで来る彩夏に「走ると先生に怒られるぞ」と笑いながら言いつつ教室へと向かう。
「持ち帰るのはどれだ?」
「この工作のとコレとコレ」
そう言ってランドセルロッカーの上にある自分の工作とロッカー内にあった分厚い本を指差す。
「他には無いの?」
「うん。ないよ」
「今日全部持って帰れるから明日は来る必要無いな」
「わかった!」
一応持参した肩かけカバンに本を入れて工作を手に持ち教室を後にする。
ロッカーや机を見た感じだとイジメや意地悪はされていないようで安心する。普段の様子や教科書やノートからそういうのは無いと思っていたけど実際に確認すると安心する。
行きと違いカバンを持参しているので、念の為に中身が彩夏のものしかない事を確認してもらう。
これにて彩夏のミッションはコンプリート!家に帰ることにする。
彩夏は行きと同様に俺と手を繋ぎたそうにたまに見上げてくるけど断腸の思いで無視している。工作物は脇に抱える形であれば片手で持てるけど何かの拍子に落として壊れたら嫌だからな。
そんなシスコンにしか理解できない苦行に耐えて帰宅する。
寝る前の雪華とのいつもの時間で雪華から鳳来さんが姉御先生から注意されるかも、との話題になった時に「ひえ〜」と情けない声を出したのだとか。
桃瀬さんは雪華達が別のバイト先で働きだしたのを知っている。
友人として気まずくなる位ならバイトは無しのほうがいいと思ったらしい、と笹嶋さんから聞いていたので罪悪感は無い。
木曜日に雪華と鳳来さんと一緒に洋菓子店へと向かっている。別に鳳来さんが姉御先生に注意されるのを楽しみに行くわけではない!いや、ほんの少しはあるけど少しだけだから。ちょっと店長に頼みがあって行くのがメインだから。
そんな感じで事務所に行くと姉御先生に呆れられた。今日は雪華も休みなのにゾロゾロと来たのだから仕方ないけどさ。
「内宮。ここはたまり場じゃ無いんだぞ?」
「誤解ですよ!ちょっと店長に頼みがあって来たんですって」
「そうなのか?ちょっと呼んでくるから待ってろ」
そうして旦那さんである店長を呼んできてくれた。
「頼みがあると聞いたけど、何だい?」
「実は妹がもうすぐ誕生日なんですよ。なので誕生日ケーキをホールで作ってもらえないかと思って相談に来たんです」
「! もちろん可能だよ。種類やサイズはどうするかい?」
「すみませんが、今日は出来るかどうかの確認だったので親と相談して雪華がバイトの日の閉店後に改めてお伝えします」
「わかった。こちらとしても、そういうオーダーを忘れていた部分もあるから思い出させてくれてありがとう」
「では、後日よろしくお願いします」
そう言って事務所を後にする。鳳来さんへの注意が聞けないまま。
「彩夏ちゃんもうすぐ誕生日だったね」
「ああ。名前に“夏”が入っているように来月誕生日だろ?」
「確かにそうだね。プレゼントあげたいな」
「夏休みになれば時間の自由度が高くなるからデートも兼ねて買いに行こうぜ」
「うん」
今年はこっちに引っ越ししてから初めてのホールでの誕生日ケーキだから嬉しいだろうな。ホールで買えるのはクリスマス位と言えば洋菓子店の無さがわかると思う。




