気になる洋菓子店
連休明け、普段なら目前に迫った夏休みの予定を考える場面なんだけど、今日は雪華とお互い違うことを考えている。
「そろそろ開店時間だね。花穂さん一人ってことは無いよね」
「どうだろな、姉御先生の話だと身内が助っ人に来るみたいな事を言ってたけどな」
気になるのは雪華にとってはバイト先である洋菓子店。俺達が気にする問題では無い、というのを理解はしているけど、俺にとってはお世話になった姉御先生が関わっているので気にはなる。
そんなこんなでテスト返却+授業の時間は過ぎていき、帰宅時間となり雪華と一緒に洋菓子店へと向かう。
「「お疲れ様です」」
事務所へと入ると姉御先生だけだった。
「お疲れ様。ん?今日は内宮はバイト無いだろ?」
「雪華を送るついでに平日の様子が気になりまして」
ソファで寛ぐ姉御先生と俺が会話を始めたけど雪華は更衣室へと向かった。
「そうか。平日は初日という事もあるけど、休みの日ほどは入らないな。売場は厳田の姉さんだけで済んだからな」
「そうなんですね。当初の予定通り19時位まで営業するんですか?」
「その予定だ。昨日までは夕方前がピークで一気にお客さんが来なくなっただろ?だから閉めたけど、平日の場合は会社帰りの人もいるかもと思ってな。調査も兼ねてのことだな」
そんな会話をしていると雪華が更衣室から出てきて売場へと向かった。その際に手を振ってきたので、俺も振り返す。
「ところで先生、人気商品はやっぱりシュークリームですか?」
「そうだな。シュークリームの人気は間違い無いな。あと、石嶺さんが提案してくれた二つも人気でな他では買えない味、として口コミで話題になっているらしい」
「へえ。なら第2弾としてリンゴの季節になったらリンゴのケーキなんてどうです?こんな風にバラのように飾りつけしてたので、パティシエの本領発揮になるかもですよ?」
そう言いながら雪華が作ってくれたケーキの写真を見せる。
「中々いいな。今でもリンゴは売ってるし、可能じゃないか?」
「先生。リンゴには沢山の品種があって収穫時期がズレてますよね?品種ごとのケーキも可能じゃないですか?逆にケーキとの相性が悪い場合も考えられますし」
「! 確かにそうだ、品種ごとならオリジナリティとして高いな。旦那に提案してみよう!その写真送ってもらえるか?」
「もちろんです。あと、にんじんやじゃがいもを使ったスイーツもあるそうなので一緒に提案してもらえますか?」
「わかった。都心なら別だろうがフィンランドで食べられているスイーツが提供できる、というのは強味になるかもと旦那も言ってたからな。提案しておこう」
「よろしくお願いします。では、一旦帰りますね。閉店後に雪華を迎えに来ますから」
「わかった。気をつけてな」
「はい。失礼します」
そう言って事務所から出て帰路につく。雪華には閉店作業になったら連絡するように伝えてあるので問題ない。
帰宅後、俺と父さん以外は晩飯を食べている。父さんは少しの残業で俺は雪華と一緒に食べるため。父さんが仕事で一緒にご飯を食べないことはあるけど俺が一緒に食べないことを妹達は不思議に思っているみたいだった。
雪華から連絡があり迎えに行くために外出の準備をしていると、彩夏が抱きついてきた。この位の時間に帰宅することはあっても俺一人で外出することは無いので一緒に晩飯を食べなかったこともあり、不安になってしまったようだ。同じ時間でも冬だと外は暗くなっているので泣いてたかもしれないな。
彩夏には頭を撫でながらおねえちゃんを迎えに行くだけですぐに帰ってくるよ、と話す。
「こんばんは〜。失礼します」
店の事務所に行くと店長含め全員で寛いでいた。義姉さんを迎えに来たのか厳さんも居るのには驚いた。
「厳さんも迎えに来たのか?」
「おう。薄暗くなってきたからな」
「なるほどね。店長、明日は予定通り店休日でいいんですよね」
「そうだね。店が休みの場合もあると知ってもらうためにも休みにするよ。本音では初週だから開けたいんだけどね」
雪華「ひろ君、何かあったの?」
「いや、鳳来さんがね姉御先生が帰ってきて旦那さんと洋菓子店をオープンさせたことを元同級生に話したら会いたいって声が多くて、流石に焦ってるみたいなんだよ」
「まったくあいつは。学校内の顔だけは広かったからな。木曜に来るからその時に注意しておくか」
姉御先生のそんな言葉に全員で笑った。その後は少しだけ雑談して俺達も厳さん達も帰ることに。
帰宅後、彩夏は安心したし愛美と朝輝は甘いニオイのする雪華にまた抱きついた。朝輝は雪華から離し肩車をする。三歳児に嫉妬するなよと思われるかもしれないけどアングル的に男の朝輝はダメ。それに気付いたらしい雪華がクスクスしていたけど、無視しておいた。
寝る前のいつもの時間に、バイトの様子や俺が別のスイーツを提案していた事などを話して雪華がキスをしてきた後、おやすみをする。
雪華のキスは俺がスイーツの提案をしてくれたお礼だそうだ。




