桃瀬さん家へ
夏休みが近づいてきた。その前にはテストがあるんだけどね。えっ?五月の連休前にも同じことを言ってたって?同一人物なんだから、同じ思考ってことだよ。
女子への護身術指導は無しになった。道場や授業では無いので、後出し文句を懸念してのことだった。つまり、疑わしい生徒がいるってことだろう。俺もトラブルは御免だから丁度いい。
雪華達は洋菓子店に行ったりしている。店頭販売の種類や持ち帰りの箱詰めなんかを学んでいるらしい。チェーン店なら他店で研修バイトするんだろうけど、個人経営だから試行錯誤の部分も多いだろうし頑張って欲しい。俺も姉御先生に何かあれば力になると伝えてある。
テスト前週間になった月曜の放課後に蔵持先生に声をかける。
「蔵持先生、ちょっとお話があるんですが」
「どうしましたか?テスト範囲についてですか?」
「そんなんじゃ無いですよ。夏休みは釣りとか計画していて、渡す場合どうしますか?」
「テスト前なのに余裕ですね。今はもう少し順位を上げることを考えたらどうですか?」
「俺は中の上位が居心地がいいので大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なのかわかりませんが、一旦保留にしておきましょう。あなたは色々な意味で疎まれていますから」
「? わかりました。では、夏休み前に打ち合わせということで」
「はい、そうしましょう」
俺が疎まれているってどういうことだ?内宮班の皆とは良好な関係だと思うんだけどな。
「内宮君、行くよー」
そんな事を考えていたら、桃瀬さんに声をかけられる。今日は桃瀬さん家の桃農園に桃を買いに行くのだ。
桃瀬さん家は俺らとは別路線のバスに乗り終点近くまで行く。バス内の放送で桃農園の宣伝があった。話を聞くとこの時季限定で放送料を支払い宣伝してもらっているらしい。
バス停から少し歩いて到着。まだ一般向けの桃狩りはしていないみたいだ。
「販売所はどこにあるの?」
「あそこの自宅駐車場前だよ。でも、内宮君達はこっちに来て」
そう言われて来たのは農園近くにある作業場だった。
「ここにあるのはB品だから安いよ。A品以上は流石に申し訳ない価格だからさ」
どうやら気を使わせてしまったらしい。ならば。
「じゃあ、この5Kg箱で一箱買いたいんだけど」
「ちょっと待って?そんなに買ってくれるの?」
「うん。ウチさ、雪華を入れて7人家族だからこれ位すぐに食べちゃうよ」
「そうなんだね。このまま持ち帰るの?宅配便も使えるけど」
「この位なら平気だから持ち帰るよ」
「わかった。今詰めるから待ってて」
そう言って何処かに行った桃瀬さん。
笹嶋「興味本位で悪いけど、何日位で食べちゃうの?」
「数にもよるけど2日以内は確実かな」
「すごい。でも、お金かかりそう」
「そうだね。でも、フルーツは必ず食べるのがウチの方針なんだよ」
「へえ」
「こんなところで聞く話じゃないけど、笹嶋さん彼氏いる?」
「いないよ。募集中」
「なら、夏休みのどこかでダブルデートに行かない?紹介したい人がいるんだ」
「甘やかしてくれる?」
「笹嶋さんの基準は不明だけど、金銭面での甘やかしは無いな。ただ、俺より本格的な料理作るよ?将来は弁当屋を目指してるから」
「マジで?是非お願いしたい」
「それじゃ、都合のいい日を複数連絡してくれるかな。雪華と相手と調整するから。それとこれが紹介する人ね」
そう言ってスマホ内の顔写真を見せる。アイツには打診してあるので笹嶋さん次第だ。
「性格が合えば好みかも」
「良かった。じゃあ連絡よろしくね」
「うん」
そんな会話をしていると桃瀬さんが戻ってきた。
「お待たせ。これ試食してみて」
そう言われて食べてみる。
「うん。甘いし、みずみずしいね!」
「ありがとう。じゃあこれ品物ね」
「わかった。お値段は?」
「これでお願い」
そう言って電卓の画面を見せてくる。
「予想より安いけど大丈夫?また利用したいから無理はして欲しくないんだけど」
「大丈夫。ちゃんと親の承認金額だから」
「じゃあこれで」
「ありがとうございます」
「今日はありがとう。また来るね」
「うん。今度は石嶺さんも一緒に来てよ」
「わかった。また明日学校で、笹嶋さんもまた明日」
「「また明日」」
そう言って別れてバスに乗り帰宅する。
就寝前のいつもの時間に雪華に笹嶋さんとのダブルデートの件を話しておく。
俺達以外もいるから、何処に行くのか迷うね。




