広也の収入源
桃瀬さんとの話し合いの翌日、先に登校して教室にいた俺達のしばらく後に桃瀬さんと笹嶋さんが一緒に登校してきた。笹嶋さんがこちらの視線に気付くとサムズアップをしてきたので、特に問題は起きなかったのだろう。
ただ、桃瀬さんが声をかけた全員がバイト拒否を知った時も不安だけど。下津木さんは夏はコスイべントが多いらしく、最初からお断りしていたみたい。
そんなことがあった週末。父さんに付き添ってもらい、俺はとある場所に向かっている。
「ひろ君。今日はどこ行くの?」
「明日の日曜は母さんの訓練の日だろ?もうそろそろ梅雨入りするだろうから、休みの外出が面倒になる前に甲虫類の買い取りをしてもらいに行くんだ」
実は、飼育生物で繁殖した生体を買い取ってもらうのだ。ただ、買い取り名義は父さんになっている。俺がまだ未成年なので父さんの副職扱いにしてもらい、税金で引かれるであろう金額以外を俺が貰うことになっている。
妹弟の面倒やら何やらでバイトは出来ないからこれが俺の収入源なわけ。これがあるので、両親からの小遣いは無いから繁殖にも力が入るって寸法よ。
今回は甲虫類だけど両生類や魚類とかの場合もある。買い取りしてくれる専門店が近場にある、この環境に感謝だな。いずれは飼育している生物のブリーダーみたいな事もしたいから資格も取得したいと考えている。
そんな事を考えているうちに店に到着。
「すみません。買い取り査定を予約していた内宮ですけど」
「ああ、はい。じゃあこのカウンターに出して下さい」
対応してくれたのは新人さんかな?見たことのない人だ。
「店長さんは?」
「店長なら今、席を外しているので私が対応しますね」
何だかこの店員、生体の扱いが悪いな。そう思っていると査定が終了する。
「はい、こちら査定額になります。これでよければ買い取りしますよ」
そう言われて見せて貰った査定額に唖然とする。
(こいつ、俺が持ち込んだ種類すら把握してないし、バカにしてやがるな)
ギリギリ5桁ってふざけるのも大概にしろよ!
「すみませんが納得できる金額ではないのでやめときます。店長さんには『今までお世話になりました、もう持ち込みしません』とお伝え下さい」
「へ?」
呆気にとられている店員から生体を返してもらい別の店舗に向かう。
「ひろ君。あたしは甲虫類の価値は知らないけど、そんなにひどかったの?」
受け取った査定額の書かれた用紙を見ながら雪華が質問してくる。
「ひどいって問題じゃないよ!査定は目茶苦茶だし、生体の扱いは悪いしで最悪な店員だよ」
「確かに、扱いは悪いなと思った。仮にあたしが購入する側なら、あの店員には頼みたくないもん」
あんなの専門店の店員することではない。確かに郊外店ではあるけど、駅からのアクセスもいいし、駐車場もある店舗なのだから。
別の店では、前の店とは違いキチンと査定してくれた。クワガタ類はノギスでサイズを測り、大型個体には上乗せもしてくれたほどだ。
前の店は最初に買い取りでお世話になったし、店長とも顔見知りになったから利用していたけど、今度から全部こっちで買い取りしてもらおうと決める。
「今度は大丈夫だったの?」
「ああ。満足すぎる結果だよ」
店を出た俺達に雪華が聞いてくるので、査定表を渡しながら頷く。
「ええ!金額の桁が違うんだけど!?」
「そりゃ、流通されている中の希少種も含まれているんだから当然さ」
飼育禁止や栽培禁止とかの違法なのはウチには一切無いから安心して欲しい。
「じゃあ、悪いけど父さん。色々な手続きのことはお願いするよ」
「その辺は任せておきなさい。今日は他にもあるのか?」
「いや、無いから大丈夫。明日は母さんの訓練日だから帰ろうか」
「わかった」
「雪華は午後から出かけるのか?」
「うん。烏野さんと鳳来さんと一緒にバイトの面接」
「おお。見つかったのか?先日、鳳来さんと農園バイトはやめとこうって話してたばかりじゃん」
「実は烏野さんが良さげなところ見つけて連絡くれたんだ。それで、急遽面接することになったの」
「そうか。雰囲気が良くないと感じたら、やめとけよ?」
「うん。商店街の中にあるし、変な店じゃないから安心して」
「わかった。気を付けて行ってこいよ?何かあれば連絡してくれ、家にいるから」
「うん」
昼飯後に雪華は面接へと向かった。
夕方に帰宅した雪華に話を聞くと結果は後日、連絡がくるらしい。
三人一緒に受かるといいね。
明日の投稿ですが、夜の22時頃になります。




