連休最終日
昨日の就寝前、雪華はかなり甘えてきた。俺が無自覚とはいえ少し突き放すように感じてしまったそうだ。
俺は雪華のどちらの祖父母にも会っていない、というのも両方遠方に住んでいるからだ。
逆にウチの祖父母は近所だ。結婚前提の付き合いをしている雪華を正式に紹介すれば大騒ぎしてどんなことになるやら、そう思ってしまった。
でもこれは俺が思っている勝手な事情。俺と雪華の信頼関係だからこそ、この程度で済んだと考え直したほうがいいと感じた。
なので、雪華にされるがままにイジられた。流石に最終段階に行きそうになったのは止めたけど。
今日はお詫びデートで海に穴釣りに行く。
ドラマとかの描写では日の出前から家を出発しているけど、俺達は普通に朝飯を食べてから出発。
「じゃあ母さん行ってきます。今日の晩飯は釣った魚の天ぷら予定だけど、万が一ボウズの場合は連絡するから頼むわ」
「気を付けてね。広也のことだから大丈夫だと思うけど、その時は安心しなさい」
「じゃあ、母さん達も気を付けて」
「では、凪咲さん行ってきます」
「「「いってらっしゃ〜い」」」
そうして母さん・彩夏・愛美・朝輝に見送られながら出かける。
俺達以外の家族もこの後、地元では芝生公園と呼ばれるところにピクニックに行く。
俺達が向かうのは先日潮干狩りをしたところとは別の海岸沿いになる。あちらは砂浜だったけど、こちらは極端に言うと岩場。電車を乗り継ぎ、バスに乗り換えた場所にある海辺に向かっている。
「ひろ君。これから行くところは磯遊び出来るの?」
「俺達の磯遊びは、潮溜りだろ?今向かってるのはゴロタ石の場所だから難しいな」
「そっか。近くに潮溜りはないの?」
「同じバスで少しだけ先まで行くとあるぞ。ただ今回は穴釣り目的だし、網無いし、俺達好みの種類の魚はまだいないよ。それはまた今度の楽しみにしようぜ」
潮溜りでも穴釣りができる場所もあるけどね。そこは穴釣りには不向きなんだよね。
「そうだね。潮干狩りでスイッチ入って先走るところだったよ」
「まあ、俺も同感だよ。雪華と一緒だとスイッチ入りやすいしな」
その後の会話はほぼ無い。ただ、気まずい雰囲気は全く無いのが俺達らしいな。
バス停から少し歩けば目的地で移動時間は約2時間位かな。
ここで釣り用の長靴に履き替える。
「はいこれ雪華の長靴ね、スニーカーは袋に入れて俺に頂戴。俺のリュックに入れとくから」
「わかった。何で潮干狩りの時にはこれを履かなかったの?楽なのに」
「本格的すぎて逆に怪しまれるからだよ」
「確かに。潮干狩り場では浮いちゃうね」
そんな会話をしながら準備完了!
「雪華は穴釣りのやり方覚えてるか?」
「tietenkin。エサは何?」
「今回は青イソメだ。じゃあ、付かず離れずで釣りしていくぞ」
「おー!」
青イソメなんて女子には嫌悪対象になるかもしれないけど、雪華は平気。
釣りをはじめて、しばらく経つ。先行者がいたのか、あまり良くない。釣れてもリリースサイズばかりで移動を考えていた時。
「ひろ君。変なの釣れた」
「変なの?」
近くにいた俺に雪華が声をかける。
「これなんだけど、白いのよ」
「これ、ギンポの白変個体じゃないか?」
体長的には幼魚サイズで、白いけど所々は黒くてギンポらしい、ひょうきんな顔だ。
白ならアルビノでは?と思うだろうけど目が黒いので違う。
「こいつは飼育しよう。まだ幼魚だから成長したら色が変わるかもだけど綺麗だから」
「わかった!」
これだけで今日来た価値があるぜ。
「雪華、少しだけ移動しよう。先行者がいたのかもしれないから」
「バスは大丈夫?」
「あそこの道がバス通りだから平気。もしかしたら帰りは行きの一つ先のバス停から乗るかもだけど」
「なら、平気だね」
この移動が大正解。20cmクラスのいい感じのが釣れたし、雪華はカサゴも釣った。
「雪華、そろそろ帰ろう。今日はギンポの天ぷらを晩飯にしたいからさ」
「そうだね。全員分確保できたもんね」
こうして俺達は帰ることにした。
〜帰宅後〜
「広也お帰り。釣れて良かったわね」
「ああ。最初は全然ダメで焦った。でも結果的には全員分釣れたし良かったよ」
「カサゴはどうするの?」
「それは雪華の釣果だから、明日にでも唐揚げにしてあげようと思う。あと残りのギンポは彩夏達には悪いけど俺達の昼飯にしよう。明日の朝、天ぷらにするよ」
「わかったわ」
今日の夕飯のメインは、もちろん俺達が釣ってきたギンポ。それ以外にも野菜を天ぷらにしてある。妹弟も美味しいと言って喜んでくれている。
白いギンポは念の為、単独で飼育することにした。今後が楽しみだぜ。




