雪華の部屋
「それじゃあ頼んだわよー」
そんな呑気な母さんの声を聞きながら、雪ちゃんに背中を押され階段へと向かい、二階へと上がる。
指定された部屋へと案内してドアを開けるといつの間に運び入れたのか、荷物がズラリ。
「ここがあたしの部屋かー」
キョロキョロと興味深そうに見回す姿に理解ができないままの俺。
「ええっと、部屋着類は…と」
「ひろ君ごめんね。部屋着に着替えるから一旦部屋から出てくれる?さすがに生着替えはまだ恥ずかしいし」
「あ、わ、悪い。そ、そうだ制服かけるハンガーはある?」
「ん。大丈夫」
「なら、一旦下にいるから」
「あ、待って!そこにいて。すぐに着替えるから」
「わかった」
壁に背中をあずけて座りながら、一緒に暮らすことへの心の準備をする。
当然ながら拒否するという選択は俺にはない。そんな事を言えば彼女が悲しむのは当然だし、何かしらの覚悟があって同居するのを決断したのなら、双方の親が認めた以上受け入れるだけだ!
「Anteeksi。お待たせ」
そう言って出てきたのはスウェットの上下に着替えた姿だった。
(良かった。気合入れて着飾った格好だったらドキドキしちゃうからな)
でも、フィンランド語が出るくらいにはリラックスしているって事だよな。意識してないと出てこないのだ、つまり無意識には言わないのを知っている。
「じゃあ、片付け始めますか」
ドアを止め具で開けたままの状態にしてから中に入る。
まずは家具を固定したほうがいいので、ダンボール類をドア付近へと移動。
「べッドはこのままでいいの?」
「うん。前もって部屋の中を見せてもらっていたからベッドと勉強机だけは業者の人に設置してもらっていたの」
いつから計画していたのだろう?あまりの用意周到ぶりにさっきの俺の覚悟をかえせと言いたくなる。言わんけど。
その後も、妹の部屋には無い化粧台なんかを雪ちゃん指導のもと設置したり、俺が開封しても大丈夫なダンボールから中身を取り出し置いていく。
「「終わったー」」
黙々と作業して取り出したばかりの時計を見て確認すれば約2時間たっていた。
そこは妹の部屋とは違う女の子の部屋になっていた。
ただ、普通の女の子の部屋には似合わない存在がいないのが気になる。
それは、彼女が飼育しているヒョウモントカゲモドキ(通称∶レオパ)、爬虫類の存在だ。
大切にしているから、ここで暮らすなら持参するはずだけどなあ。