内宮班釣り倶楽部 その2
「ひろ君、あの枝の束は何?」
朝の野菜の収穫作業が終わり、キッチンで朝食作りを始めたところで雪華に質問をされる。
「あれは榎だよ。昨日、桃農園に買い物に行ったらバスの車内から剪定作業が見えてさ、一旦ウチに桃を置いて改めて見にいくと結構な太さの幹もあったから欲しい太さのを全部貰ってきた」
剪定していた榎はタマムシの産卵床になる太さの幹が多かったから大助かりだぜ。
「なるほどね。何か言われた?」
「変わった小僧だって言われたよ」
「何よ小僧って、失礼な言い方ね!」
「その程度の暴言であの束がタダで貰えたのなら安いもんさ」
「むー」
大人の話し合いの結果、洋菓子店では期間限定で桃瀬さんの桃農園で栽培されている桃を使用したスイーツが販売されている。その影響?で連日盛況らしく、忙しくしているみたいだ。ま、彼氏の義斗が何かしらの理由づけをして手伝いをしてるみたいで桃瀬さんも嬉しそうだったし、いいんじゃないのかな。
「ところで、ひろ君。あたしは不満があります」
「どうしたよ?」
「夏休みになってからガサガサに行ってないのはどういう事なのでしょうか?」
「干満差の大きい大潮周期じゃなかったからでございます。今週の週末からその周期になるので行く予定でございます」
「やっとかー」
「ただ、採集するのはエサにするエビ類だけどな、飼育する魚の採集はほとんど無いんだよね」
「チョウチョウウオ類も元気だし、カゴカキダイもいるもんね」
「そゆこと。イシダイも釣りで補充出来ちゃったしな。ま、美味しいショウジンガニを目当てに頑張りましょう?」
「だね。 さ、今日の釣り倶楽部も頑張りますか!」
「えー、要望が多かったのでキス狙いの釣り場へとやってきました。ただ、サビキも可能なのでアジを狙いたい人は言って下さい」
「それと、毒魚が釣れる確率が高い時期になっているのでカサゴに似た魚やナマズに似た魚、不審な魚は必ず報告して下さい」
「最後に、釣れる可能性はかなり低いですがタコは密漁対象なので、釣り上げずに水面でバラすので報告お願いします」
「今日も楽しく釣りするぞー」
「「「「「おー!」」」」」
釣り場の防波堤に着いたので、まずは注意事項の連絡だ。慣れはじめた頃が危険だからな。
「内宮君、これって毒魚ですか?」
サビキ釣りをしている烏野さんの仕掛けには手の平よりも少し大きな黒めな魚体。
「おお!これはカワハギだから大丈夫。冬場に大きくなる肝は珍味として有名だけど、今の時期も煮付けや刺身で美味しい魚だよ」
「そうなんですね」
「名前の通り、硬い皮を剥いで調理するんだけど剥ぎ方を知っているか親御さんに確認してくれる?知らなければ処理するから」
「わかりました」
この防波堤ではサバは釣れないんだけど、アジとイワシは回遊ルートらしく釣れる時は入れ食いになるんだよね。
ま、サビキなら普通はエサ取りで嫌われるべラ類も釣れるけど俺達にとってはご馳走だ。
「ひろ君、大変。これ、どうしよう」
釣りを始める前に毒魚注意をしたので、今日は釣った魚の安全確認が多いんだけど、雪華が釣ったのは。
「飼育向けサイズのウミスズメ、だと?混泳は無理だから単独水槽だな。飼育立ち上げはしてないけど30cmのキューブ水槽で飼育すっか」
握りこぶし位の飼育するには理想の大きさなんだよな。
「何だかゴメンね」
「謝る必要は無いって。ありがとな」
「うん」
念の為に言っとくけど、鳥じゃ無いからな?
ウミスズメは皮膚から粘液毒を出すから混泳は無理で単独飼育しないといけない。ま、ずんぐりむっくりとした体型で泳ぎが下手なのもあり狭い水槽でも飼育出来るのはありがたいな。
「じゃあ、烏野さんのカワハギは自宅にお邪魔させてもらって捌くから。一旦荷物を置きに帰らせてもらうね」
「わざわざごめんね」
「気にしないで。剥ぎ方は簡単だからさ」
「うん」
今日の釣果もいい感じだった。晩飯のおかずにする事を考えていつも通り夕方前には帰路につき、最寄り駅で別れたところだ。
さてと、まずは蔵持先生へのお裾分けなんだけど、今日は仕事で学校との事なので校門前で渡すことになっている。我々学生は夏休みなのに、仕事お疲れ様です。
「今日はキスとマゴチになります」
「ありがたいんですが、釣りに行く頻度高くないですか?教師としては心配なのですが」
「ちゃんと自宅課題もやってますし、それ以外の勉強もしてますから安心して下さい」
「本当に?お願いしますよ?」
「わかってますって。 では、お仕事頑張って下さいね」
「先生、失礼します」
「気をつけて帰って下さいね」
手を振りそれに答えて帰路につく。
「心配させないためにも今度渡すのは夏休みが終わる近くにすっか」
「あはははは」
自宅へ向かうバス内で蔵持先生にとって悲しい内容の会話がされるのであった。
「おじゃまします」
夕方の忙しい時間帯という事もあり、俺だけ烏野さん宅にお邪魔することにした。
「皮の剥がし方ですが、口を切り落としてから手で剥けばこの様に簡単に出来ます。あとは普通の魚と同様に捌いてもらえれば大丈夫ですので」
「内宮君ありがとうね。これなら釣り場でやってもらえば良かったかも」
「それはダメだよ。鮮度も落ちるし、食用部位がむき出しだから不衛生だからね」
「そうか、そうだよね」
おしゃべりをしながらも烏野さんが釣った二匹のカワハギの処理を終わらせる。
「じゃあ、晩ご飯の用意で忙しいと思うから、これで帰るね」
「本当にありがとう。今度お礼するから」
「別にいいよ。それじゃあ、またね」
「うん。バイバイ」
烏野さんの住むマンションから少し離れたところで。
「雪華、聞いてたか?」
『うん。何だかごめんね』
「親がいるとはいえ、心配な気持ちも理解出来るからさ。すぐに帰るからな」
『うん』
烏野さんの住むマンション前から、実は通話状態にしていたのだ。束縛されているとは感じては無いから安心するように伝えてあげないとな。
俺は足早に自宅へと向かうのだった。




