ニイニイゼミの羽化観察
「おにいちゃん、これもカブなの?」
「本当は大根だよ。あみちゃんとあっくんが絵本みたいなのを期待していたから大根で代用しているだけだね」
「そっかー」
朝食後に家庭菜園で丸型大根の収穫作業中。もう一種類丸型大根は育てているんだけど、収穫はまだ先になる。ただ、愛美と朝輝にとっては不気味な雰囲気に感じているらしく近づこうとしない。確かに葉の茂り具合を見ると怖く感じるのかもしれないな。
「今日の晩ご飯は大根のおかずにするの?」
収穫した大根を米のとぎ汁でアク抜きするのに茹でていると雪華が聞いてきたので。
「水分が多いから煮物がいいらしいんだよ。だから、夏場で冷たい物を食べる機会が多いから今日は“おでん”にする予定だ」
「夏のおでんもいいかもね」
「だろ?」
昼飯後にはおでん作りをする予定だ。味が染み込んだ大根は最高だもんね。
◇◇◇
「それじゃあ母さん、ちょっと行ってくる」
「まだ明るいけど気をつけてね」
「「「行ってきまーす」」」
無事、夕方の雷雨にならなかったのでセミの幼虫採りに出発する。向かうのはバスを利用すれば十数分の距離にある神社の境内。
「二人分でお願いします」
バスの運転手さんに伝えてピッとタッチ。残念ながら高校への通学路線では無いから定期は使えないんだよね。
彩夏は子供料金だから現金払い。
下車後にピッとタッチしたいと彩夏が言ったので、帰りは彩夏にタッチさせてあげよう。
さて、神社の境内は俺達みたいなセミの幼虫目的の人はいないみたいだ。日中なら虫とりの人達がいるかもしれないけどね。
「とりあえず今日のところは他の種類は探さずにニイニイゼミの幼虫を探して捕まえるよ」
雪華「他の小型種はいないの?」
「ヒグラシとツクツクボウシのこの辺の発生時期は8月中旬からだから探すほうが困難だよ」
「なるほどね」
「逆にアブラゼミやミンミンゼミはすぐに見つかるよ。そこのバイクのタイヤを登ってるやつみたいに」
「本当だ」
バイクのタイヤを登ってるアブラゼミの幼虫を近くの木に移動させてあげてから捜索開始。
ニイニイゼミの幼虫は泥が付着しているから彩夏にも判別が楽なのもいいよな。
「ひろ君、見つけた!」
「よし、まずは撮影するからそのままで」
「うん」
捕まえた時の状況を記録するのに撮影をする。
「おにいちゃん、白いセミさんがいるよ」
ちょうど彩夏の目線の位置に抜け殻にしがみつくセミがいた。
「これは羽化直後のアブラゼミだな。今度じっくりと観察するから、今日は目的のセミの幼虫を探そうね」
「はーい」
その後も探し続けて一人一匹の合計三匹を持ち帰ることにした。
「「「ただいまー」」」
「「おかえりー」」
「おかえりなさい。無事に採れたの?」
「もちろん。幼虫を触るから手洗い前に準備していたところに置いてくる」
「わかったわ」
和室に準備した丸太に不要になった包帯を巻きつけた観察用の木にセミの幼虫を掴まらせたら、愛美と朝輝がイタズラしないように見張ってもらい、俺達三人は手洗いうがいをしに行く。和室が住処のキューちゃんは今日は母さんの仕事部屋で寝ることになっている。
「もう、羽化はじまるかな?」
「まだ気に入った場所を探している最中みたいだからまだかな。お兄ちゃんは動画撮影する準備があるから晩ご飯食べておいで」
「ごめんね、おにいちゃん」
「いいから、いいから。雪華も食べてくれるか?俺の代わりにお願いする場合もあるから」
「sain sen。なら、先にいただくね」
彩夏と雪華とそんなやり取りをしていると一匹が場所が決まったらしく動かなくなったので動画撮影の準備をする。
「おにいちゃん、どうなった?」
「三匹とも場所が決まったよ。それぞれの場所に撮影するカメラを置いてあるから動かしたらダメだよ」
「はーい」
和室は現在薄暗くしてある。羽化が始まれば明るくても問題無いから動画撮影も大丈夫だろう。なので俺も晩飯を食べはじめたんだけど。
「ひろ君。一匹の背中にヒビが入ったよ」
「早いな。でものけ反りまではまだ時間がかかるだろうから今の状態をタブレットで撮影しといて。動画じゃなくて写真でいいから」
「うん」
ニイニイゼミの羽化時間は約30分位らしいので彩夏は和室で観察中だ。
「「やー」」
そう言って俺の背中に愛美と朝輝が隠れたので二人と一緒に和室から出てリビングで落ち着かせる。
「どうしたんだ?」
父さんの質問にテレビを見ていた母さんもこちらを見る。
「背中から出て、のけ反ったセミを見て怖がったんだよ」
「不気味に見えたのかもね。二人ともママのところにおいで、一緒にテレビ見ようね」
「「うん」」
愛美と朝輝もまだ起きている時間だから一緒に羽化の観察をしていたんだけど、のけ反り中は怖かったらしい。でも泣いてはいないから嫌な感情では無いみたいだな。
数時間後、三匹全部無事に羽化したので撮影と観察はおしまい。翌朝に部屋のどこにいるのか、わからなくなるのは困るので丸太を網戸に使用する素材で作った箱ですっぽりと上から被せてから就寝する。
羽化の観察中の彩夏は興奮していて、ちゃんと寝れるか心配だったけど観察が終われば、あくびをしていたからべッドに入ればすぐに眠るだろう。
まずはニイニイゼミの観察はおしまい。連日はキツイから数日後に今度はアブラゼミかミンミンゼミの観察をする予定だ。




