彩夏の教室にはイモ虫がいっぱい?
『内宮さんも持ってきたの?ランドセルロッカーの上に置いといてね』
『エサの葉っぱ?学校外授業で集めたり先生方で調達するから、お兄さんには大丈夫って伝えておいて』
『はあ…これがあるから虫が苦手な人は低学年の先生は無理なのよ。あの実習生大丈夫なのかしら?』
昨日の朝礼前に、持っていったアゲハの幼虫に彩夏の担任の先生は頭を悩ませているようだ。そして、彩夏は黒板近くの前列側の席のようだ。そんな昨日のボイスレコーダーの内容の答え合わせのように朝食中に。
「そうだ!おにいちゃん、チョウチョの葉っぱは大丈夫って先生言ってたよ」
「そうなんだ。それなら良かった。先生、幼虫喜んでた?」
「びみょーだった。よう虫持ってきた人が多くてね、ランドセルロッカーの上には虫カゴがいっぱいあるの」
「そっかー」
「クラスのもう一人の先生がね「イモ虫ばかり集まるのね」って言ってたよ」
「何の幼虫か楽しみだね」
「うん。よう虫はね生き物係だけじゃなくて、みんなでお世話するんだって。あとカマキリも!」
「楽しくていいね!」
「うん!」
俺達の住む地域は郊外にある。だから、親や兄姉から学校の教科書よりも先に毛虫は危険と教えられるから手出しはしない。ただ、イモ虫タイプの蛾の幼虫もいるわけで、彩夏の教室にいるイモ虫が全て蝶になるとは限らないんだよね。彩夏達の口ぶりからモンシロチョウの幼虫である青虫以外にも多数のイモ虫がいるみたいだからな。早い種類だと実習生がいる間に羽化する可能性もあるから、蛾の場合だと実習生の悲鳴がこだまするかもしれないな。
「彩夏ちゃんの教室楽しそうだね」
「生き物好きにとっては楽しいだろうけど、先生達は憂鬱だろうな。何せ何が羽化するかわからないガチャみたいなもんだしな」
「確かに。野生個体だから、寄生ハチや寄生ハエの可能性もあるか」
「そういうこと」
終齢幼虫に近づくにつれて、寄生されている可能性は高くなるからな。
「内宮君、職員室にて話し合いがありますから一緒に行きましょう」
「わかりました」
担任の九條先生と共に教室を出る。雪華や内宮班のみんなには15時頃に職員室へ行くのは伝えてあるから無反応だけど、何も知らない俺達ヤジ飛ばし組は「ざまあ」「呼び出されてやんの」「ダッセー」とか言ってきて笑ってしまう。
そして、到着したのは職員室の隣にある応接室で入るとすでに母さんがいた。九條先生とは入室前に別れたから何の話しなのか余計に不明だ。
「母さん着いてたんだね。今日はスーツ姿なんだ」
「お母さんを何だと思っているの?ちゃんとTPOはわきまえるわよ!」
「ごめん、ごめん。でもパンツスタイルなんだね」
「時間によってはこのまま保育園にお迎えに行くからね、スカートだと下着の露出女になる可能性があるから」
「あはは。確かに。愛美が珍しがって引っ張る可能性あるし、二人相手にスーツのスカートスタイルは無理か」
「そういうことよ」
俺も母さんも若干緊張していたので、リラックスするために普段通りの会話をしていると、教頭と手首を掴まれた生徒会役員の先輩、それと知らない男女が入室してきたので座っていたソファから立ち上がり、一礼する。
「本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます。それと、娘を助けていただき本当に感謝いたします」
男性がそう言うと教頭以外の三人が頭を下げた。どうやら、先輩の両親のようだな。
お互いの挨拶の後は教頭も含めて改めて当時の状況説明。内容物に関しては何らかの液体に虫を漬けていたそうだ。ま、アオカミキリモドキ自体が小さめだからそのまま虫だけのハズはないと思っていたけどね。教頭は教えてもらったのか不明だけど、残念ながら液体についての説明は無かったよ。
先輩の母親は口元にずっと手をあてていた。仮に液体をかけられた場合の事を考えてしまったのだろう。アオカミキリモドキだけの場合は重症化しなければ完治に2週間位だと思う。ただ、先輩は女性だから万が一、顔とかに跡が残れば簡単に想像出来無い位の悲しい気持ちになるもんね。男だってそんなの嫌なんだからさ。
「それじゃ、お母さんは先に帰るわね」
「気を付けて帰ってね。とは言っても俺も下校時間になるけどさ」
「わかったわ」
最後に先輩の両親から、母さんはお礼として封書を渡された。最初は断っていたんだけれど、最終的には受け取った形だ。そんなの気にしなくていいと思うんだけどね、俺としてはついでだったんだからさ、言わないけど。
教室に戻れば内宮班がどんな事情だったのかを聞いてきたので、先輩の両親がお礼を言いたかったみたいと伝えておいたよ。
帰宅後、母さんからお礼の中身はギフト券だと伝えられた。現金以外だと一番無難な贈り物だよね。
明日は金曜日で高校の教育実習最終日になる。果たして涙のお別れの場面はあるのだろうか?




