試食会
朝食の準備をしている横で雪華も調理をしている。例の調理実習に向けてフィンランドの家庭料理を内宮班に試食してもらうためだな。今回作っているのは肉料理とジャガイモ料理。12人の大所帯だから、昨日から仕込んでいたんだよね。二人だけで当日の朝に作るなんて無理ですって。あ、一応材料費は本日徴収しますよ?タダで試食させろなんて言う人は内宮班にはいませんので。
二人で持参するのをタッパーに詰め終わり、俺は朝食の味噌汁作りを開始する。
「今日のお味噌汁はホンビノスかあ。でもさ、貝殻の大きさの割に身は小さいよね」
「だな。アサリと比べてしまうとスカスカな印象だよな。でも、味は濃厚だから許せるよな」
「だね〜。ところで今年も潮干狩りに行くの?」
「当然!我が家の恒例行事だからな。ただ、家族で行くのとは別に雪華と行くのも考えている」
「どういう事?」
「蔵持先生関連だよ。去年、先生から活きた状態でのアカニシ貝を要求されただろ?だから雪華と俺でアカニシ貝を取らないとダメだからな」
「あ〜。先生の事だから多澤先生と安中先生も呼んでの飲み会だろうから、ひろ君が取っただけじゃ足りないか」
「そういう事。それにウチで食べる分を取れないだろ?だから俺達で行く必要があるんだよ」
「なるほどね。なら、あたし達だけの時はアカニシ貝メインで、皆と一緒の時は飼育するのを含めて色々って感じだね」
「そうだな」
そんな会話をしつつも味噌汁作りは終了。試食用とは別に妹弟用にも作ってくれていた肉料理を朝食の一品に加えてあげる。お子様が大好きなあのおかずだからな。
「とりあえず2品作ってきたよ。でも、本場では一緒に食べるから1品として考えてね」
現在は昼休憩の始まり。1人用のタッパーを全員分用意するのは無理なので3〜4人分を大型タッパーに入れて持参している。
「これは、ミートボールにマッシュポテト?」
笹嶋さんの質問に。
「うん。ミートボールはリハプッラ(Lihapullat)と呼ばれていてリンゴンベリージャム(※リンゴンベリーとはコケモモのこと)を好みでつけて食べてみて」
「それと、マッシュポテトはペルナムッシ(Perunamussi)と呼ばれているの。バターとクリームで濃厚に味付けしているのが特徴なんだ。リハプッラと一緒に食べるのがフィンランド流だよ」
下津木「へえ〜。マッシュポテトは付け合わせじゃ無いんですね」
「うん。日本でお米を食べるようにフィンランドではジャガイモを主食にする場合があるの。だから、ジャガイモ料理のマッシュポテトは付け合わせじゃないんだ」
「「「「「なるほどね〜」」」」」
こうして始まった試食会なんだけど。
「何これ!?外はカリカリなのに中はジューシーですごく美味しいよ?」
「うんうん。マッシュポテトのペルナムッシと良く合うし、病みつきになるかも」
「ジャムを付けて食べる肉料理も新鮮」
こんな感じで大好評だ。厳さんと昌史なんて取り合いになる勢いで食べてるしな。
みんなで食べ終えて。
「一品目はこれで決まりかもね」
鳳来さんの言葉に頷く人もいるけれど。
「甘い!甘いぜ鳳来さん。実はペルナムッシや茹でたジャガイモに合うウインナー料理があるんだよ!」
鳳来「な、何ですって!?うちの大好きなウインナーで?」
「しかも、俺が大好きなマカロニ料理もあるから。これで決めるのは早計だぞ」
下津木「わたくし、マカロニ大好きなんだわ」
という事で、最後に少しザワつかせて試食会は終了となった。
試食会は教室で普通にやったからさ、昼飯は教室組の人達が遠巻きに見ていたよ。一口頂戴は無かったけどね。
〜就寝前のいつもの時間〜
「試食会は皆に大好評で良かったな」
「うん。少しホッとした」
「調理実習当日は調理室のオーブンとかも使えるだろ?そういった料理はどうする?」
「う〜ん。試食で自宅から持っていくのはな〜。温かい内に食べたいのもあるし」
「なら、ダメ元で多澤先生に調理室の使用を聞いてみるか?蔵持先生経由でワイロを渡しているから融通を利かしてくれるかもだし」
「ワイロってw でも調理室を使わせてくれるのなら作れるレパートリー増やせるね」
「決まりだな。今度の授業終わりにクラスの皆の前で聞いてみるよ。コソコソと裏で確認する内容じゃないからな」
「うん」
今回は雪華がメインで調理を指揮するからな。先生へ依頼したのが俺だとしてもズルイだの何だのと雪華が言われる可能性があるのは避けないと。折角、友達も出来て楽しく学校生活を送っているんだ、些細な事でこの環境を壊したりはしないさ。




