カクレエビのために
たけのこ掘りの翌日の日曜日、雪華をバイト先に送ってから、一人潮溜りへとやってきた。
正確な名前は不明だけど、アコヤガイみたいな二枚貝がここの潮溜りには生息している。アコヤガイは真珠を作る貝だから密漁対象では?と思うかも知れないけど、真珠を作っているアコヤガイは全部養殖している貝になる。なので、この名称不明の二枚貝は密漁対象では無いので安心してくれ。
さて、潜んでいそうな岩の隙間を探して大きめの個体を三個入手した。夏のガサガサの時には探しもしなかったくせに何故今更と思うかも知れないけど、昨日のカクレエビの寄生先にどうかな?って思ったんだよ。本来の寄生先の貝は大きい上に飼育できるのかも不明だし、観察出来ないだろうしね。この貝なら、飼育可能なのは一度経験しているからさ。
潮溜りに来るなら雪華も連れてくればいいのにと思うかもしれないけど、この時期の潮溜りって何もいないんだよ。だから一人でも問題無いんだよ、それにこの時期密漁対象のイシガニのメスがウロウロしているから取りたくなっちゃうしね。
俺もウロウロしているのを見て欲しくなったので、販売所でワタリガニのメスを購入して帰宅する。ちなみに俺が買ったのはイシガニでは無くてガザミ類だけどな。
帰宅した俺は、まずはいつも通りに貝の水合わせをする。次にキッチンへ行き、蒸し器の準備。ワタリガニは少しだけ生きている状態なので冷凍庫に入れて〆る。
そんな作業をしていると雪華を迎えに行く時間となった。今日の雪華は夕方までのシフトなのだ。雪華にしては珍しいと思うかもしれないけど今日の晩飯は昨日掘ってきた、たけのこご飯だからな。皆と一緒に食べたい気持ちがあったんだろうね。たけのこご飯は去年のおかわり具合も加味して十分な量を炊いています。
「こんばんは。お疲れ様です」
「内宮!丁度いいところに来た!」
洋菓子店の事務所に挨拶しながら入ると何故か姉御先生に歓迎された。
「少しの間、息子を見ていてくれるか?買い物忘れがあってな買いに行きたいんだ」
「いいですよ。ミルクとオムツは大丈夫ですか?」
「オムツはさっき交換したから問題無いし、ミルクの時間はまだ先だ。それに、調味料を買いに行くだけだから」
「わかりました。赤ちゃんの事は心配せずに焦らず気を付けて行ってきて下さい」
「わかった。じゃあ頼むな」
事務所を出て行く姉御先生を見送る。
「ママが戻るまで、一緒にお留守番してようね〜」
「あう〜」
泣く気配は無いのでソファに座り、音の出るおもちゃで遊んであげる。プピー。
「完全にお父さんじゃん」
「ほ、鳳来さん。いつの間に!」
「今よ。姉御先生は?」
「買い物に行ったよ」
「そうなのね。うちさ、さっきまで休憩してたんだけど赤ちゃんを預ける気配無かったのよね。信用されてないのかな?」
「そんな事無いよ!俺に預けたのは経験者だからだよ、暴れた時の対処とかは知っている人じゃないと不安なだけで姉御先生が一緒の時は抱っこさせてくれるんだろ?その内に任せてもらえるようになるって。ね〜」
「あ〜う〜」
「ほら、お願いねって言ってるぞ」
「あはは。そうだよね、ごめんね変な愚痴言って聞かなかった事にしといて」
「あいよ」
雪華もバイトが終わり、現在着替え中。そして姉御先生が戻ってきた。
「ただいま。内宮ありがとな」
「いえいえ。あくびをしていたので寝かせてしまいましたが大丈夫ですかね?生活のリズムが狂うと夜泣きが大変ですが」
「大丈夫だよ、この位の時間に一度寝てるから」
「そうですか」
少しホッとしながら姉御先生に赤ちゃんを渡す。雪華も着替え終わり更衣室から出てきたので。
「では、俺達は帰りますね」
「お疲れ様でした!」
「石嶺さんお疲れ様」
帰宅した俺はワタリガニを調理する。とは言っても蒸しガニと味噌汁にするだけなのでパパッと完成させて晩飯の時間です。
メスガニだから内子と呼ばれる卵がうめぇ!ご飯と一緒に食べるおかずとしては不向きだから、たけのこご飯の邪魔をしないのも最高だぜ!味噌汁も内子を含むカニの出汁で美味いしな。ただ、個人的にはショウジンガニには劣ると感じるけどね。
晩飯後には採集してきた二枚貝をカクレエビの飼育水槽に投入する。生きた二枚貝を投入したけどヒオウギ貝の貝殻は一応そのままにしておいた。経過が楽しみだぜ!
就寝前の時間に雪華から色々と鋭い指摘があり、根負けして全て白状してしまいました。「ズルい」と言われ長めのキスを要求されましたよ。




