バレンタインデー
2月といえば男子がソワソワする日がある。そう、バレンタインデーだ。中学女子の場合は、入試目前のイべントだから迷惑かもしれないよね。
さて、小・中とあまりクラスメイトと関わらなかったからチョコとは無縁だろ?と思うかも知れないが、実は意外にもチョコを受け取る立場なのだ。
とはいっても雪華を裏切るようなものでは無いから安心して欲しい。俺が貰うのは彩夏の友達や保育園のママさん達からだからな。
彩夏の友達の場合は、一緒に遊んであげたり軽く宿題を見てあげたりしていたから貰えたんだよ。保育園の場合は愛美と朝輝と同じクラスのママさんから貰えていた。どちらも正しい表現かは不明だけれど兄チョコって感じだ。
もちろん雪華からもチョコは貰えていた。ただ、引っ越しして中学になったらチューリップの花束になったけどな。フィンランドのバレンタインはチューリップを贈るみたいで、それに倣ったんだって。
雪華から送られて来るチューリップは赤・白・ピンク・紫の4色を1本ずつの計4本。実は中学卒業間際に知ったことなんだけれど、これには意味があったらしい。
というのも、植物には花言葉というのがあるのと花束には本数による意味があるのをようやく知ったのだ。俺は植物は栽培するけど、花言葉なんて意味を考えたことすらなかったからな。
ちなみにチューリップ自体の花言葉は「愛の告白」「博愛」「思いやり」で、花色にもそれぞれ花言葉があるらしい。
赤は「家族への感謝」「愛の告白」
白は「待ちわびて」「失恋」
ピンクは「労い」「誠実な愛」
紫は「気高さ」「不滅の愛」
となっているそうだ。白には失恋という不穏なワードがあるけれど、白は純粋な心を示し恋人への思いを伝えるためにも使われるそうなので大丈夫みたいだ。そして、花束の4本には“一生愛し続けます”という意味があるらしい。
フラワーギフトの専門家視点で言えばダメ出しがあるのかも知れないけれど、雪華の俺に対する深い愛情は伝わってくるのでヨシ。
◇◇◇
バレンタイン当日、雪華は結構な数のチョコを準備している。そうそう、我が校はチョコの持ち込みは大丈夫だからな。
「持っていくチョコ多いね」
「ね。去年までは無関係だったけど、実際渡す立場になるとチョコを渡す理由づけを広げる菓子メーカーには腹が立つわよ」
「あ〜」
最近は友チョコだの何だの、○○チョコって贈る範囲を広げているもんね。学生の財力には考慮しないからねえ、贈る立場の人達は大変だわ。
「やっぱ、今日の教室内はザワザワしているな」
「おや厳さん、義姉さんと無事に恋人になったからって他人事ですな」
「そういう昌史だって義妹ちゃんと恋人になったから余裕そうじゃねえか! いや、昌史の場合は表情があまり顔に出ないな」
「とりあえず恋人がいるバレンタインでよかったな」
厳さん「くそう!一番余裕のある内宮が言うと腹が立つぜ」
昌史「今年はどれ位だ?」
「彩夏の友達は微妙だけど、保育園での十個は確実だな」
厳さん「嫁さんからもあるだろ?」
「あたぼーよ!」
雪華からは花束の贈り物な事は伏せている。花束の意味を知った人によっては想いが重いと受け取る人もいるだろうし。
「ちょっと内宮君!大切な石嶺さんがいるっていうのにチョコを多く貰っているだなんて、まさか浮気しているの?」
出たな!勘違いの下津木さんめ。まあ、これもキャラ作りの一環なのかもだけど。
「安心して、俺が貰っているのは兄チョコ。妹弟の友達やお母さんからだから」
「あら、そうなの?ごめんあそばせ。 それと皆さんにも友チョコを渡すわね。彼女がいるから大丈夫だと思うけど、わたくしが愛するのは爽ちゃんだけだからね。勘違いしたらダメなんだから」
そう言って梱包されたチョコを俺達三人にくれる下津木さんであった。
その後も内宮班のメンバーからチョコを貰う俺達。舞原さんからも貰った時には嘆きの叫びが廊下からも聞こえてきたよ。舞原さんには本命彼氏の裕隆がいるんだけどなあ。
「事前に教えられていたとはいえ、少しだけ複雑な気分だわ」
食後、雪華から話しがあるからと俺の部屋に来たんだけど、俺の机の上にあるチョコ達を見て言葉での表現が難しい顔をする雪華。
「貰ったのは内宮班の女子組と彩夏の友達、それと保育園の女の子だからね」
「全員感謝の気持ちだけなのは、わかっているから」
来月のホワイトデーのお返しがあるから、俺も大変なんだよなと思っていると。
「じゃあ、あたしからのチョコをあげる。 んっ」
そう言って口移しでチョコを渡してきた。
「ふぅ 今年はチューリップじゃないんだね」
「同居して愛情表現の質が上がったからね。 んっ」
その後も雪華が手に持っているチョコの箱の中身が無くなるまで、口移しでのプレゼントは続いたのであった。最後のほうは、俺の理性が崩壊寸前だったけどな。
一方、厳さんと昌史は大量のチョコを持ち帰ったために恋人から正座での事情聴取があったと翌日聞かされた。




