ウツボ釣り その2
マラソン大会が迫ってきた土曜日に俺は磯場に釣りに来ていた。先生達に頼まれているウツボを釣るためだな。
今回は雪華と防波堤でブダイを釣りに来たほうの磯場に来てみた。こちらの磯場で釣るのは初めてだけど、防波堤でブダイが釣れたのを考えると、魚影が濃い気がするのだ。こちら側の釣り禁止エリアと密漁対象魚も把握しているので問題は無い。俺らが釣りで狙うのは密漁対象に含まれていないので、安心して欲しい。ただ、一部海藻類が密漁対象なので、やはりブダイ釣りの場合は海藻の現地調達はしてはいけないと感じた。ちなみに前回釣り具屋で購入した海藻は、対象外の海藻だったよ。
磯場で釣りをする人達は防波堤よりも多いんだなあと思いながら、良さげな場所で開始する。1月も後半になり、水温が一番低下する時期だから魚の活性が下がり釣れなくなるから、しばらく海釣りは出来ないなあと思っている。今が時期のわかさぎも船内釣りは平日でも予約で空きが無かったから、来月の入試による平日休みに釣りに行くのも断念した。
釣り始めて数時間、現在はウツボでは無くメジナを狙っている。実はウツボが驚くほど簡単に釣れたのだ。多分こちら側も、いつもの釣り場同様にウツボ狙いの人はいないのかもしれない。
最寄り駅に到着するのが暗くなる前に帰宅する事にした。結局メジナは釣れなかった。多分だけど、釣る人が多くて警戒心が強くなっているのだろう。その代わりにイシダイが一匹釣れたのは意外だった。水温が低下するこの時期は沖の深場に移動しているからだ。まあ、イシダイといっても縞模様がまだハッキリしている小ぶりの個体だけどな、でも食べるにはこの位が美味いんだよね、実は。
高校の校門前のいつもの待ち合わせ場所に蔵持先生はいた。申し訳ないけどバケツ持参で来てもらっている。
「先生こんにちは。無事に釣れましたよ」
そう言いながら、釣れた中で一番の大型個体を先生持参のバケツに入れる。女性三人で食べるには十分だと思うからな。
「ありがとうございます。これは往復の交通費になるので受け取って下さい。私だけでなく三人からなので」
「では、ありがたく頂戴します。ある程度の血抜きは現地でしてきましたが、処理する時には注意して下さい」
「わかりました。 うっ意外と重い」
持ち帰るためにバケツを持った先生だけど重さに驚いているな。そりゃ、あのサイズは成人男性でも大変だろうからな。俺?俺は多少鍛えてるから平気だよ。
「先生。差し支えなければ自宅まで運びますよ?もちろん口外はしないので安心して下さい」
「では、すみませんがお願いします」
こうして俺は先生の住む自宅マンションに一緒に行き、自宅前の玄関ドア前までバケツ入りのウツボを運んだ。
「では俺はここで、先生ならご存知だとは思いますがウツボの口内は細菌が多いので、身を生食する場合には手洗いの徹底をお願いします」
「そうですね。運んでくれてありがとうございます」
先生が玄関ドアを開ける前に俺は立ち去る。え?何で部屋に入らないのかだって?あのなあ、ここで自宅内に入るのなんてイヤ〜ンな本の中や映像作品だけの展開だよ!何を考えているんだよ、まったく。
自宅に帰り、玄関を開けて「ただいま」の挨拶をすれば三人の妹弟が玄関に来て「おかえり」と言ってくれる。いつも通り、先に手洗いうがいを済ませたら三人の頭を撫でる。
今日の晩飯はウツボ鍋。イシダイは内臓処理後に冷蔵庫で寝かせて明日、刺身で食べる予定だ。
ウツボ鍋の下準備を終わらせて、あとは母さんに任せて雪華を迎えに洋菓子店へと向かう。
「こんばんは〜。お疲れ様です」
「内宮、お疲れさん」
事務所に入ると姉御先生と赤ちゃんがいたけれど、今までと抱き方が違う。
「赤ちゃんひょっとして、首がすわりましたか?」
「流石内宮。気がついたか」
「首がすわれば、抱っこも楽になりますね。 おいで」
両手を前に出して、抱っこに誘ってみる。顔を合わせることは多いけど来ないと思ったら。
「あ〜」
と言いながら手を伸ばしてきたので、驚いた。
「誘っておきながら言うのも何ですが、人見知りしないんすね」
「正直わたしも驚いた。定期検診でママ友になった人には顔を背けるんだぞ?」
そう言いながらも抱っこさせてくれる姉御先生。
「よしよし。いい子だね〜」
赤ちゃんを抱っこしていたら、着替え終わった雪華達が更衣室から出てきたので帰るために姉御先生に渡そうとしたら。
「あ〜ん」
と少しだけ嫌がったのが嬉しい。
「おまえ。人たらし、この場合は赤ちゃんたらしだな」
「ちょっと姉御先生。変なこと言わないで下さいよ」
その場の全員で軽く笑って解散する。
就寝前のいつもの時間に、海釣りは水温低下で来月後半まで釣りは無理そうだと雪華に伝えると残念そうにはしたが「仕方無いよね」と言ってくれた。そう考えると冬休み明けの連休に釣りに行ったのは大正解だったのかもな。
明日の日曜は、桃瀬さんと義斗とのダブルデートとなっている。こちら側の施設でデートするから、今日、義斗は母さんの実家に泊まっているそうだ。




