家族旅行(二日目・午後前編)
昼飯は猪肉のお店で確定している。全員で9名いるので、団体扱いになるから昨日の内に予約しておいたそうだ。ちなみに、これから食べる猪はジビエと呼ばれている野生の個体では無くて養殖されているもの。つまりは豚さんと同じって事だな。
旅館から出た俺達は、彩夏が行きたいと言う美術館に向かっている。美術館といっても、広大な敷地に数多くの美術品を展示しているようなところでは無く小規模な所で、建物は俺らが利用する近所のスーパーみたいな広さだ。現在の特設展示は千代紙を使用した折り紙作品で、彩夏はこれが見たかったそうだ。
俺の両親も雪華の両親も色彩豊かな紙で作られた作品に見入っている。
「あやちゃん折り紙好きだもんね。色々な作品があって楽しいね」
「うん!」
彩夏と手を繋いでいる俺は彩夏が見たいものに引っ張られる形でついて行く。作品はもちろんガラスケース内に入っているから破損とかの心配は無いからな。
美術館内を巡り、出口付近にある売店で千代紙が販売されていた。俺達が行く文房具店で見る千代紙は正方形の小さなものしか無いけれど、割と大きめな千代紙も販売されていたので。
「あやちゃん。折角だし、千代紙と折り紙作品買おうか」
「いいの?じゃあ、このツルさんとこの千代紙セットが欲しいな」
「よし!あとはこの折り方の本も買おうか。千代紙じゃなくても作れるし」
「ありがとう、おにいちゃん」
売店のレジに商品を持っていき購入する。彩夏は子供用のリュックを背負っているので、その中に入れてあげる。
俺は気付かなかったんだけど、母さんと愛美と朝輝も気に入ったのがあり、雪華の母さんと雪華も綺麗な紙に魅了されて購入していたみたいだ。
彩夏のおかげで有意義な時間を過ごした俺達は昼飯を食べるために予約してある店へと向かう。
店に到着して案内されたところは半個室の座敷席だったので、寛ぎながら食べることが出来そうだ。
予約していたのは、猪肉を使用したぼたん鍋と焼き肉だった。ぼたん鍋は味噌をべースにしたつゆで、他は普通の鍋物と同じく野菜や豆腐、しいたけとかのキノコ類などが入っている。焼き肉が運ばれてきて、従業員の方が「鍋のほうも食べられますよ」と言ってくれたので全員で「いただきます」をしてから食べ始める。
俺の中での鍋物はポン酢や溶き卵で食べる印象だったけれど、このぼたん鍋は味噌べースという事もあるのかそのまま食べるみたいだ。
猪肉に対する結論として、すげえ美味い。ごはんがすごく進んでしまい、何杯もおかわりの注文をしてしまった。それは俺以外も同じだったよ。
食後のバニラアイスも堪能してから店を出る。レジ横に、この店で取り扱っている猪肉の通販パンフレットが置いてあったので持ち帰ることにした。どうやら、真空の冷凍パックで届くみたいだ。お値段はそこそこするので頻繁には無理だけど、冬場は鍋で普段は焼き肉用に購入するのもアリかもしれないな。
昼飯の後は土産物店を物色する。今回の旅行はレジャー施設でがっつり遊ぶというような感じでは無いからなあ。愛美と朝輝との旅行が可能かどうか様子見のような気がする。俺としては普段忙しい両親が温泉で体を休めることが出来れば一番いいと考えているし、妹弟も楽しそうに過ごしているから十分だろう。
そんな事を思いつつ、今は朝輝と手を繋ぎながら歩いていると。
「ここのお土産物屋さんの中を見てみようか」
そんな父さんの言葉で店内に入る。
「俺も内宮班のみんなと姉御先生にお土産買おうかな」
「それなら、あたしも半分出すよ」
「そうか?なら、12個入りのを買うか」
「Se on hyvä」
という事で、定番土産の温泉まんじゅうを購入する。賞味期限も問題ないやつだしな。温泉まんじゅうは賞味期限が極端に短いものもあるけれど、この商品は結構余裕があるから大丈夫。その他にも山菜ときのこの漬け物といった自宅用も購入したし、雪華とお揃いの雑貨も購入した。
レジで精算する前に、彩夏が少し悩んでいるみたいなので声をかける。
「あやちゃん、どうかした?」
「うん。これ、いいなと思って」
見ると、可愛い鹿の箸置き。多分箸置きとはわからずに可愛いからといった理由だろうな。値段も手頃だし買ってあげよう。
「雪華。悪いけど朝輝の手を繋いでもらってもいいか?」
「いいよ。あっくん、お姉ちゃんとおてて繋ごうね」
朝輝を雪華に任せてから。
「あやちゃんはお友達にお土産買った?」
「ううん」
「夏休みにお土産もらったでしょ?他にも渡したい子がいるなら買って帰ろうか。お兄ちゃんが買ってあげる」
「いいの?」
「いいぞ。さ、何がいいか選ぼうね」
「うん!」
夏休みの俺との日帰り旅行では彩夏は友達にお土産は買っていないからな。ここでは買って帰ろう。彩夏が選んだのは俺と同じく温泉まんじゅうで、特に仲の良い子にはお揃いの色違いのストラップも購入していた。
その後も数店のお土産屋さんを見た俺達は旅館へと戻ることになった。




