ウツボ釣り
本日2話目。
俺の誕生日が終われば12月だ。そして、テスト前週間にも突入する。
クリスマスや冬休みを堪能したいなら、赤点は許されない。夏休み同様、数日間は補習があるからな。
そんな土曜日、つまり来週からテスト前週間が始まるってのに俺は磯場に釣りに来ていた。狙いはウツボ、海のギャングなんて呼ばれることもあるニョロっとした、あのウツボだ。
今日の雪華はテスト前最後のバイト。釣りに行く俺を羨ましがったが、磯場の釣りに雪華は絶対連れて行かないと決めているからな。何を釣りに行くかは伝えていないので、美味い魚を釣ってくるから勘弁してくれと言うと「夜に甘やかして」と言われた。誕生日の風呂事件以来、雪華に密着されるとドキドキするようになってしまったので早くいつも通りに戻りたいよ、本当に。
さて、肝心の釣り場のほうはチラホラと釣り人がいる。多分、前回雪華が釣ったメジナとかを狙っているのだろう。俺はタチウオ用の仕掛けに、アジやサバの切り身をエサに探っていく。するとエサの血のニオイに反応したのか、強烈なヒキが来た!多分海中ではウツボ特有の回転が行われているだろう。
岩場の隙間に逃げられないようにしながら格闘していると、ようやく釣れた。大きさは80cm位かな?かなりの良サイズだ。もう一匹釣れたらメジナ釣りに変更しようと考えたのがいけなかったのか、釣れなくなる。仕方無いので、場所を移動して再び狙う。すると、アタリが来て無事に釣ることに成功する。今度のは赤味を帯びている魚体のトラウツボって種類だった。これもウツボ同様美味いので持ち帰ることにする。残念ながら時間的にメジナを釣る時間は無かった。
磯場から離れた場所で帰り支度をしていると、数人のオッサンが小バカにしたような口調で話しかけてきた。
「ボウズ、残念だったな。そんなのしか釣れないでよ」
「ウツボなんて外道、どうすんだい?」
「俺は今日、これが本命だったんですよ。食べるためにね」
「はーん。そんなの狙わず、他のを狙えばいいのに」
「ウツボの美味しさを知らないなんて、可哀想な釣り人ですね」
「なっ!」
そう言って立ち去った。
今回は久々に折り畳み式のキャリーを利用している。ウツボ二匹は重いからね。
最寄りのバス停に着いて歩いていると、スピーカーおばさんに遭遇した。今日は嫌な人にばかり会うなあ、とゲンナリする。
椎の実拾いの時に会った後は『実は、あの家の子供達はドングリ拾って食べてる貧乏人だった』と言いまわっているしな。双子は嫌味なんてわからないから「ドングリおいしいよ」と笑顔で言ってるし。こっちは狙い通りなんだよな。
「あら、双子ちゃんのお兄ちゃん。今日も何かを拾ってきたの?」
「いえ、今日は釣りに行ったんです。大漁ですよ」
「あら、いいわね。おばさんにもわけてよ」
俺はクーラーボックスを開けて。
「捌けるならどうぞ」
そう言ってトラウツボを取り出す。屈んだオバサンの目の前で口を開けたので鋭い歯が見えると。
「ヒャアアアアアア」
と絶叫して仰け反ったので。
「ほら、捌けるならどうぞ」
と追撃すると。
「い、いらないわよ!そんな気持ち悪いの」
と言ってフラフラしながら去っていった。さ〜て、今回はどんな風に言いまわるのか楽しみだぜ。ちなみに嫌なことしか普段からしてこないので、罪悪感はない。
帰宅したら、ウツボの下処理を開始する。
まずは、塩で魚体をまんべんなく擦ってヌメリを取り除く。これを怠るとヌメリから臭みが出るので注意が必要だ。
次に捌いていくんだけど、ウツボの血にはウナギとかと同様に毒がある、と言われているので目に入らないように注意しながら捌く。ウツボは皮が硬いので切れ味の良い出刃包丁じゃないと難しいぞ。
開いた身は薄っすらと赤みを帯びている。血や内蔵を水洗いしながら取り除いて、ある程度の大きさに切って下処理は終了。下処理の時に皮は絶対に捨てたらダメだからな!美味い部位だから注意するように。ウチでは尾に近い部分は小骨が多いので出汁取り用にしている。そして、身は脂がのっていて捌いているだけでギトギトだよ。
二匹を捌き終わると雪華からメッセージが来たのでバイト先に迎えに行き、その帰り道で。
「今日は何釣ってきたの?」
「それは、お楽しみで。下処理は終わっているから帰ったら晩飯だぞ」
「Odotan sitä todella」
さあ、いよいよお待ちかねのウツボ料理です。
今日は、ウツボのたたきに刺身、そして唐揚げです。たたきはガスバーナーなんて無いから、コンロに備わっている魚焼きグリルで両面を軽く焦げ目がつく程度に焼いたものになる。
ウツボの味は鶏肉に似ていて、とても美味い。冬休みの内宮班のパーティで出した時の反応が楽しみだぜ!妹弟も含め家族全員パクパク食べているしな。
〜いつもの就寝前〜
「釣りに行ったのはウツボだったんだね」
「まあな。前にも言ったかもだけれど、磯場は雪華と一緒は怖いからさ、連れて行きたくないんだよ。ゴメンな」
「ひろ君の優しさは感じるけど、やっぱ寂しい」
そう言って俺の胸に頭を埋める雪華。
「ねえ、ひろ君。すごくドキドキしているけど大丈夫?どこか具合が悪いの?」
心配そうな顔で見つめてくるので。
「俺の誕生日に風呂に入ってきただろ?あの時に肌面積が多い雪華を見てから密着されるとドキドキしちゃうんだよ」
「そっか、そっか」
そう言ながら嬉しそうに軽くキスをした後に、俺の部屋を出て行く雪華を見送る。
はあ、明日のウツボ鍋の具材のことでも考えながら寝よう。




