文化祭二日目(前編)
文化祭二日目、最終日ともいうけれど。
今日は一般公開日となっているので地域住民の方や去年の俺達のように、この学校を進学先に考えている中学生も来るだろう。
昨日同様一旦教室にてHRを行い、その後に校庭ブースへと移動する。人気があったので窓際組にイタズラされていないか不安だったけれど問題なし。
昨日は昼頃からの食事時間帯に非常に混雑したのだ。校舎内にも飲食系の出展があるにも関わらず、だ!行列が出来た時には全員マジかよ、との表情になり校舎側で呼びかけしてくれていた班員を呼び戻して列整理をしてもらった。
ありがたいことに、焼きおにぎりも人気なんだけれどそれ以上に人気だったのが、ねぎまのネギだった。今回使用したのは赤ネギと呼ばれる種類で、葉鞘と呼ばれる白い部分が赤いのが特徴のネギとなっている。このネギは焼くと甘みが出てトロトロの食感になるので採用したんだけれど魅了された学生達が出たほどだった。
なので、外部から衛生チェックに来た職員さんに事情を説明して焼きネギのみの提供許可も得た。
「まさか、ネギが人気出るとはね…」
そう言って五箱積んである赤ネギ入りの箱を見ながら呟く鳳来さん。
「でも、納得ですよ。鶏肉はもちろん、焼きおにぎりのおかずに最高ですもん」
相づちを打つのは烏野さんだ。
俺はというと昨日同様、炭の上にオニグルミの殻を乗せて焼いている。香ばしいニオイで一定の集客はあるので、雪華は何も言ってこない。呆れた表情なのは変わらないけどね。
文化祭開始となり、校舎方面に一般客が入っていくのが見える、そんな中。
「オッス!広也。調子はどうだ?」
「まだ開始したばかりだよ!昨日は結構買いに来たけどな!」
「へえ〜」
「んじゃ、この焼きおにぎりセットとほうじ茶頼むわ」
「おうよ!笹嶋さん、相手してあげていいよ」
「うん。ありがと」
来客は笹嶋さんの彼氏の陽翔だ。この後は校内デートになるだろう。
「そうだ広也、珍しいヤツに会ったんだよ!ほら来いって」
「久しぶりだな、広也」
「裕隆じゃねえか!元気にしてたのかよ?でも、どうして今日はここに?」
「実は彼女がここの高校に通ってるんだ。で、会いに来たんだよ」
「ほおん。て、ことはネトゲで知りあった感じか!」
「うん。それとな母親が離婚したから、俺も内宮姓になるから」
「待て、待て。こんな所でカミングアウトは止めろ!陽翔、裕隆を俺らの内宮家従兄弟のメッセージグループに入れといてくれ!詳しい事はそこでだ裕隆」
「わかったよ」
「なら、彼女の元へ行けよ。待ってるぞ?」
「その彼女って、わたしなんだ内宮君」
そう言うのは舞原さんだった。
「な、な、な、何だってーーー!」
長机の食事スペースでは、俺の従兄弟がそれぞれの彼女と焼きおにぎりを食べている。驚きすぎて冷静になるとは、この事だな。まだまだ昼まで時間はあるので、お客さんはまだ多くない。
すると、今度は。
「こんにちはー。美夜子ちゃんいるー?」
ご注文は鳳来さんですか?
「そんな挨拶のしかたがあるか!」
と背中を勢いよく叩く鳳来さん。すると昌史が。
「内宮、あれが鳳来さんの彼氏だ」
「なるほどね」
夫婦のドツキ漫才を見て納得する。
「鳳来さん、校内デートしてきたら?」
「ありがとね、そうさせてもらう。一応、昨日のことがあるから昼過ぎに様子を見に来るわ」
「了解だ!」
「失礼、君が内宮君か?いつも美夜子ちゃんがお世話になってます」
「いやいや、こちらこそ鳳来さんには助けてもらっているよ!」
「今後とも、俺も含めてよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ、よろしくお願いします」
鳳来さんの彼氏と言葉を交わしてガッチリ握手をする。
「じゃあ、悪いけど行ってくるわね」
そう言って、手を繋いで校舎方向に行く鳳来さんと彼氏さん。仲が良さそうで、よきよき。
「あれ?砂糖をバラ撒いていた四人は?」
「デートしてくるって。美夜子ちゃん同様、昼頃に様子を見に戻るってさ。でも、まだまだ、あたし達には及ばないわね!」
「雪華は一体何と張り合ってるの?」
まったく、可愛いんだから。
今度来たのは厳さんと昌史の彼女だ。昌史の彼女である義妹ちゃんは来年ここも受験するみたいだから、外部の人が入れる範囲で校舎案内も兼ねてあげるといいんじゃないかな?そんな訳で二人もいなくなり、現在は7人で店を運営している。
「広也君、来たよー」
「おう!待ってたぜ、義斗。とりあえず、このセットを購入してくれ。んで、あそこで食べてくれよ」
「強引だなー」
クスクス笑いながらもその通りにしてくれる義斗。
「桃瀬さん来てくれる?」
「う、うん」
前髪を少し整えつつ一緒に来てくれる。
「義斗。こちらがお前に紹介したい桃瀬明海さんだ」
「桃瀬さん、これが俺の母方の従兄弟のいちご農園の三男で湯嶋義斗だ」
「は、はじめまして。桃瀬明海です」
「はじめまして!湯嶋義斗です。果樹農園に興味があるんだ、よろしくねー」
「桃瀬さんもいきなり二人は気まずいと思うから、ここで喋っていてよ。何かあれば、俺を呼んでいいからさ」
「う、うん」
これで彼氏候補と会えていないのは明槻さんだけだな。そう思って明槻さんのほうを見ると。
「うわーん。ゆきしゃーん、紹介まじゃぁー?」
雪華に縋りついて号泣していた。
「あ、あの内宮君」
「ごめんね、烏野さん。一気に人が減ったけれど頑張ろうね!」
「は、はい!」
(見なかったことにするのね、了解よ)