おイモ掘り遠足
今日は愛美と朝輝の通う保育園の、おイモ掘り遠足がある。
一旦保育園に集合してから近所にあるバスの営業所へと行き、バスに乗り込む。バスの大きさは一般的な路線バスより一回り小ぶりなバスで、二人ずつ座れる座席になっているので通路を挟んで一列に四人座れる座席配置になっている。
今日の遠足は愛美と朝輝と同じ三歳児クラスのみとなっている。四歳と五歳児クラスは別日にすでに行っているし、なぜか今年からおイモ掘り遠足に行けるのは三歳児クラス以上だけとなっている。まあ、遠足自体はあるらしいけど去年に何かあったっけ?まあ、いっか。
農園に到着したら、保護者向けの注意事項を先生方から聞いた後に指定された区画でイモ掘りを開始する。今日の遠足には未来の保育士となる実習生も参加しているので賑やかだ。
さて、俺は愛美と一緒にイモ掘りをする。使い捨てのポリエチレン製の手袋の上から軍手を着用して作業をする。中々の太さのサツマイモに愛美は喜んでいるけど、聞いてくる内容が食べ方なのがウチらしいな。高校生の兄が一緒に来ているのが珍しいのか実習生の人達が様子を見に来るたびに愛美が「おにいちゃん大好き!」と言うので照れてしまう。
そんな事もありつつ、配布されたカゴにイモを入れていくんだけれど、やっぱり愛美が飽きてしまった。俺が愛美と一緒に行動していたのは、この為だ。愛美と手を繋ぎ、母さんと朝輝のところへと向かう。
「母さん、愛美が少し飽きてきたから周囲を散策してくるね」
「わかったわ。お願いね」
「愛美ちゃん、お兄ちゃんと少しお散歩しよっか」
「うん」
というわけでイモの入ったカゴを母さんのところに置いて、愛美と一緒に小さなバケツを持って散策する。
イモ掘りしないで歩いている俺達に先生方が声をかけてくるけど、愛美が飽きたから散歩中と言えば納得してもらえる。
そんな散歩中に落ち葉を集めて腐葉土を作っている場所があったので、農園の関係者の方に許可を貰ってヤツを探すことにする。
愛美がどこかに行かないように股の間に挟んで探していく。愛美は不思議そうに俺の顔を見ながら「おにいちゃん?」と言うけど俺の手元が気になるらしく、視線を俺の手元に向ける。するとついにコロンと白っぽい物体が!
「おにいちゃん!」
「愛美ちゃん。これがカブトムシの幼虫だよ」
「すごーい!せんせーにみせよう!」
さっきまでの飽きた表情から一変して興奮した表情になる愛美。少し暴れる愛美を股に挟んだまま、さらに探して十数匹確保して持ち帰ることにする。
愛美は両手で一匹の幼虫を持って先生達の元へと走っていく。転ばないように軽く後を追いかけるも無事に先生達のところに着いたので安心したのがまずかった。愛美が話しかけたのが、クラスの担任や副担任の先生や同行しているショーコ先生では無く実習生の女子だったのだ!ヤべっと思った時には。
「せんせー、これぇ」
「ん?何かな?」
目線を合わせる為にしゃがむ実習生。
「さんれーよーちゅうだってー」
両手とはいえ愛美の手の平だと大きく見える幼虫を見たら。
「キャアアアアアアアア」
そりゃ悲鳴を上げますわな。
「ど、どうしましたか?」
ショーコ先生が実習生の女子に確認する前に愛美が持つ幼虫が目に入る。そして納得した表情になり、俺に質問してくる。
「広也君、これは?」
「愛美が飽きたので散歩中に腐葉土の中から見つけました。農園の方には持ち帰る許可をもらっています」
「そうじゃありません!なぜこのような事をしたのか聞いているのです」
愛美の手の平から幼虫を回収しつつ。
「愛美の性格上、自分が嬉しいものは報告しますから。ですよね?担任の先生?」
「それを言われると、ハイとしか。愛美ちゃんは楽しさを大人と共有する子なので」
「今回は報告したモノが問題でしたけど、愛美の気持ちを考えると家族としては怒ることは出来ません。怒られるのも謝罪も兄である自分がします。実習生の先生も、申し訳ありませんでした」
愛美は兄である俺が謝っているのを見て何か感じたのか、泣いてはいないけど。
「ごめんなさーい」
と謝ったのだった。
「いえ、私も突然のことに驚いてしまって。ダンゴムシなら慣れてきたのですが、すいません」
実習生の女子も何故か謝まって、これでおしまいとなった。
先生達から離れた場所で。
「愛美ちゃんは報告しただけだからいいんだよ。ただ、苦手な人もいる事を覚えていこうね」
そう言って抱きしめて、背中を軽くさする。
「うん!」
ションボリした顔だったけど、笑顔になったから大丈夫だろう。
母さんと朝輝の元へと戻り、愛美と朝輝が幼虫にキャッキャするのを見ながら、さっきの出来事を共有しておく。
そんな色々とあった、おイモ掘り遠足も終わりバスの営業所で解散となった。
車内で寝てしまった二人を母さんが愛美で、俺が朝輝をおんぶしながら荷物を持って帰宅する。
和室に敷いたお昼寝布団に二人を寝かせてから俺と母さんは一息つきながら、サツマイモの調理法を話し合うのだった。とりあえず、サツマイモごはんは確定した。
翌日の保育園で、今回の愛美の行動は問題にしない事が決まりホッとする。