雪華の頼み事
姉御先生の洋菓子店で雪華提案のフィンランドではOmenakakkuと呼ばれるリンゴケーキが販売開始となり、早くも人気商品となっている。中生種のりんごが出始めたからね、種類が豊富な晩生種になった時も楽しみだよね。パイもあるらしいけど今回はケーキのみとなっている。
和梨味とブドウ味のシュークリームも人気なだけにシュークリームの味の切り替えをいつにするか店長は悩んでいるそうだ。秋から販売の果物って意外と多いもんね。
「姉御先生、体調はどうですか?」
「産後の経過は問題ないけど、ミルクの時間があるから寝不足気味だよ」
少し目の下にクマがある姉御先生が笑う。
「これ、少額ですがお祝いです。受け取って下さい」
「おいおい。そんな気を使う必要はないんだぞ」
「先生は教師として接しただけかもしれませんが、俺は助けられたんです。だから、お祝いしたいんです」
「お前ってやつは」
少し瞳が潤んでいるかな?
「なら、ありがたく頂戴するよ。息子は自宅で寝ているけど、今度顔を見てあげてくれ」
「もちろんです。今日は呼び出してすみません、先生の元気そうな顔を見れて安心しました」
「先生、これはうちからのお祝いです。内宮同様教師として接しただけかもしれませんが、うちも相談にのってもらって感謝しているので受け取って下さい」
今度は俺と同じく先生にお祝いを持参していた鳳来さんの番。先生の体調や赤ちゃんの事を考えて一緒に渡すことにしたのだ。
「鳳来もかよ。ありがとうな、大切に使わせてもらうよ。鳳来も今度顔を見てくれな」
「はい!楽しみにしています」
今日は水曜で店休日だけど、無理を言って姉御先生と会わせてもらった。他のバイトの人達がいる時に渡すのは気を使うからね。
「じゃあ、俺達はこれで失礼します」
「失礼します。先生、体調に気を付けて下さいね」
「二人共ありがとうな」
先生と別れてお互い帰ることにする。
「それじゃ鳳来さん、また学校で」
「うん。バイバイ」
鳳来さんと別れて自宅方向に少し歩いて雪華と合流する。
「ひろ君」
「ごめんな、待たせちゃって」
待っていてくれた雪華の頭を軽くぽんぽんする。
「ううん。前にみよちゃんとの相談事って、この事だったんだね」
雪華も内宮班女子組を下の名前+ちゃん付けで呼ぶ事が増えてきた。本人曰く引っ越し先含めて呼んだこと無いと言うように、まだ○○さん呼びが多いみたいだけどな。
「そゆこと。雪華にとってもバイト先の店長の奥さんなだけだから、気を使う必要は無いしさ」
「でも、ひろ君がお世話になったんなら、あたしだって渡すのに」
「そういうのは、結婚して夫婦になってからでいいよ」
「んもう」
寄りかかってきたので、その肩を抱いてあげる。
晩飯を食べ終えて、妹弟はリビングで寛いでいるが俺は飼育部屋で作業をしている、と。
「ひろ君、相談があるんだけど」
「どした?ダイニングテーブルに行くか?」
「作業は終わるの?」
「おう。隙間時間でやる作業しかしてなかったから平気だよ」
「なら、ダイニングテーブルで話そうか」
「じゃあ片付けてから行くから、悪いけどほうじ茶を入れといてくれるか?」
「roger että」
ダイニングに行くと雪華が座っていたので、対面に座り、入れてくれていたほうじ茶を一口飲んでから。
「で?相談とは?」
「うん。庭の家庭菜園だけどさ、もうキュウリは作らないの?」
「これからの季節は育てないなあ」
家庭菜園のウリ類はハヤトウリしか育てていない。それに、庭の菜園区画はハヤトウリ以外は何も育てていない状態と今はなっている。
「そっかー。じゃあさ、飼育部屋の窓側に少しスペースがあるじゃん?あそこでは育てられないかな?」
「あそこは今は外で育てている熱帯果樹の置き場だから無理だよ。どうしたよ一体?」
「実はさ、キュウリのお味噌汁が食べられなくなるのが残念に思ってしまって」
「あー。雪華気に入ってたもんなあ」
「うん。店ではあの太さのは売られてないし、細いのは味が違うしさ、どうにかならないかと思って」
「何とかしてやりたい気持ちはあるけど、ツル性の植物だからなあ。少し考えさせてくれ」
「ごめんね?ワガママ言って」
「いいって事よ、愛する恋人のためだからな。ただ期待はしないでくれよ?無理なときは無理なんだから」
「うん。無理なら来年まで我慢するよ」
「ははは」
さて、どうしたものか。飼育部屋での栽培は無理だから邪魔にならないところに簡易ビニールハウスを作って栽培するか?
これが葉物野菜やプチトマトみたいに部屋で可能な水耕栽培できる楽な植物なら問題なかったんだけどな。
今度、ホームセンターに行ってみようかな。




