思い出の魚
「ところで、随分と遅かったね」
落ち着きを取り戻しつつある雪ちゃんに聞かれる。
徒歩で迎えに行ったこと。そして、俺が行ったルートを説明した。
まず、俺の家を時計の“6”の位置だとするとコンビニは“8”の位置、そしてスーパーは“2”の位置、保育園は“10”の位置。
位置的にどちらかは保育園帰りにすれば、楽じゃないかと思うかもしれないけど、二人を連れた状態での買い物なんて俺には無理。
そして、保育園のお迎え時間は16時30分から。なので、行きに関しては案外丁度いい時間になる。
保育園から自宅までは、双子の歩みでまっすぐ帰れば10〜15分程度。
そんな感じだ、と説明する。
★★★
【自転車使えば楽じゃね?】と思うかもしれないけど、ここは都市部じゃ無いんだよ。道は整備されてるけど、畑作地帯もあるからね。排水路なんて蓋も無いから万が一騒がれたら怪我のリスクもある(もちろん狭いし、深さも大人のくるぶし位だし、通常時は水が無いとはいえだ)。
TVや動画で都心や都市部で暴走自転車が映るけど、あんな走りをここでやれば毎日怪我してるよ。
だから、自転車に関しては父・母・俺は所持してるけど、彩夏はなし。
一応、地元民が自転車公園と呼ぶ場所に去年の夏頃に連れて行って覚えさせたけどね。
★★★
無事納得してもらったところで。
「じゃあ、趣味部屋に行こうか」
「うん」
一階にある俺の趣味部屋へと連れて行く。
ここには、生物と一部の植物が飼育・栽培されている。
大雑把に言うと魚類(淡水・海水)、甲殻類(淡水・海水)、両生類、昆虫、フィンチ類(小鳥)がいる。
もちろん?必要な生餌も多少いるぞ。
植物に関してはここでは好きなラン類と果樹を中心にって感じかな。
まあ、詳しく登場する事もあるかも。お楽しみに。
雪ちゃんはもう、目がキラッキラですよ。こういうの好きだからね。
こんな最高な部屋を用意してくれた両親には本当に感謝しかない。
そんな中、俺は一つの60cm水槽に彼女を連れて行く。そこには海水魚のカゴカキダイが2匹いる(まあ他にも細々といるけど…)。
「これ、覚えてる?小5の夏休み。今思えば、最後の両家合同旅行の時に採集したカゴカキダイ」
そう、この水槽は雪ちゃんとの思い出水槽なのだ。マンション時代は45cmで飼育していて、雪ちゃんが遊びに来た時は二人して、しばらく見ていた時間もある。
「ひろ君。本当にずっと大事に飼育してくれていたんだ。ありがとう」
そう言って、抱きついてきた。
とても甘い、いいニオイがする。
俺も背中に手をまわし、抱き寄せる。
あれから、約5年。まだ、元気なうちに実際に見てもらえて良かった。映像で見せていた事もあるけど、こうして二人で一緒に見たほうがいいよね。
今年の夏は、久しぶりに一緒に採集に行くのもアリかもな。
そんな事を思いながら、しばらくの間抱き合っていた。
「ちょっと、恥ずかしかったね」
照れて、少し涙ぐんでる。でもそれは、嬉しいからだろう。喜こんでもらえたなら俺も嬉しい。
その後は自由に見てもらって、俺も夕方のエサやりを終わらせる。
そんな感じで話しをしながら過ごしていると、出前が届いたと母さんが教えに来た。