鳳来さんの相談事
俺は今、鳳来さんと二人で喫茶店にいる、というのも帰り際に。
「内宮さ、この後って予定ある?」
「特には無いよ。ただ、晩飯の準備があるから長時間は無理だけど」
「時間は少しだけだと思う。相談したいことがあるからさ」
「わかった、いいよ。他にもいるの?」
「ううん。二人だけでお願い」
「鳳来さんの彼氏さんは大丈夫?二人だけで会うなんて」
「軽く事情は話してあるから見つかったとしても平気よ」
「了解。なら行こうか」
という訳だ。雪華はバイトだけど鳳来さんが事前に話しをしたらしい。
互いに飲み物を注文してから。
「で?どうしたよ、急に」
「うん。内宮はさ、姉御先生に出産祝いは考えている?」
「考えてるというか、渡すのは決めてあるよ」
「差し支えなければ何を贈るのか教えてもらえるかな?」
「お祝い金として現金だね」
「ストレートすぎない?」
「逆だよ、一番無難」
「どういうこと?」
「例えば鳳来さんが新生児用のべビー服を渡すとするだろ?でも、その服は洗濯したら毛羽立ってしまって赤ちゃんが嫌がる。でも喋れないから泣くだけで原因がべビー服と判って以降はその服は着せないけれど鳳来さんは着ているところを見たい。困るのは姉御先生になるだろ?」
「確かにそうね」
「姉御先生の性格だと毛羽立って着せられないとは言わないだろ?しかも鳳来さんはバイト先になるから姉御先生にとっては余計に困るんだよ」
「そっかー」
「俺の母さんも下手な贈り物が一番困るって言ってたしな。だから俺は現金にするんだよ」
「そう言われると納得だわ」
「出産祝いはバイトの皆の合同なの?」
「ううん、うちの個人的なお祝い。相談すれば無理強いになる可能性もあるからね。バイト先なのにお祝いするの?って考えの人もいるだろうしさ、だけど内宮なら同中だったし相談しやすいからさ」
「なるほどな。俺も厳さんや昌史には声をかけてないからな。俺の場合は担任だったし、世話になったからな」
「うちも似たようなもん。相談しやすい先生だったしね」
そこで少しの間沈黙が流れる。ただ、気まずい雰囲気は無い。けれど、雪華との間に流れる沈黙とは別の空気なのが面白いな。
「今日は相談に乗ってくれてありがとね、うちも現金にするよ。何かとお金がかかるって言うしさ。まあ、うちらが渡すお金なんて雀の涙だろうけどさ」
「そうだな」
「で、もう一つ別の話題なんだけど今度の文化祭でクラスの出し物によっては内宮班で独立して出店を出さない?」
「! 何かあるのか?」
「ちょっと不穏な噂があるのよ。確証は無いんだけどね」
「それって雪華が絡む問題?」
「違うけど、すごく間接的には絡むわね。要は内宮とゆきちゃんを文化祭の間一緒にさせないって事みたい」
「そんな事か。同居してるんだし効果は無いのにバカだな」
「そうなのよね。でも思い通りになってるフリもバカらしいじゃん?」
「まあな。実際に文化祭の話し合いが近々あるから、そこで見極めようぜ」
「そうね。賛同は得られているから、内宮次第でいいわよ?」
「根回しが早いですなぁ」
「ふっふっふっ。当然よ」
こりゃ波乱の文化祭の話し合いになるかもしれないな。こういう悪巧み、俺は大好きです!
鳳来さんと喫茶店前で別れた俺は帰宅して晩飯の準備を終えてからリビングのソファでだらけている。すると、朝輝が遊んでと言うので遊んでやることにした。彩夏と愛美は珍しく二人でお人形遊びをしている。
「朝輝は何して遊びたい?」
「〘ちゃちゃつぼ〙やりたい!」
「よし、やるか!」
と言う訳で朝輝と遊ぶ。ちなみに〘ちゃちゃつぼ〙というのは、わらべ歌の歌詞に合わせて手をリズミカルに動かす遊びだ。
朝輝と二人で踊って?いると彩夏と愛美も加わり別の踊りへと変わっていったのは仕方の無いことだろう。
高校生男子がそんな事して恥ずかしくないのかよ?と、この光景を見たら言うかもだけどそんな感情は俺の中に存在しないぜ。
雪華をバイト先に迎えに行ったその帰り道。
「鳳来さんの相談事って何だったの?」
「悪いけど詳しくは言えない。姉御先生に関する事の相談だった、とだけ」
「そっか」
「姉御先生はさ、俺や鳳来さんにとっては中学の教師で世話になったけど他の皆にとってはバイト先の店長の奥さん、てだけだろ?相談相手は俺が適任だったんだよ」
「それもそうだね」
「それよりもさ、文化祭で俺達を不仲にしようと暗躍しているみたいだぜ?」
「聞いた聞いた。同居しているのにね?」
「出店するって言ってたけど、何の出店だろうな?」
「最有力なのは、焼きおにぎり屋だよ」
「斬新な店に驚きなんだけど!」
内宮班の皆はそれでいいのだろうか?




