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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで
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【第98話:止まらない午後の衝動】

午後になっても落ち着かず、心も身体もどこか“止まらない”。

軽躁状態3日目の午後、るながひとつひとつ、思いつくままに動いてしまう様子を描きました。

【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(19話目)


外の散歩から戻ると、るなの頬にはほんのりと赤みが残っていた。

家のドアを閉めても、胸の奥にはさっきまでの高揚がまだ静かに跳ねている。

「……ふぅ、やっぱり外はいいな」

明人は玄関のシューズを整えながら、「お疲れさまでした」と微笑んだ。


リビングに戻ると、るなは軽やかな足取りのまま部屋の隅に目を向ける。

本棚の上の小さな観葉植物が、いつもより生き生きと見えた。

「ちょっとだけ模様替え、してみようかな」

思いつくまま、机の上の本を整えたり、ソファにかかっていたブランケットを違う色のものに替えてみたり。

それだけでも、部屋の空気がぱっと変わる気がして、るなはひとりで小さく笑った。


「明人さん、このクッション、反対の色にしてもいいですか?」

「もちろん。好きなようにしてください」

るなは夢中になって、クッションカバーを取り替えたり、窓辺の小物を並べ直したりする。

動き回るうちに、音楽をかけたくなってスマホから好きなピアノ曲を流し始めた。


流れる旋律に合わせて、ふと手を止めて小さく体を揺らす。

「こういうの、なんだか久しぶりかも」

さっきまでの散歩の疲れも、どこかに吹き飛んでしまったみたいだった。


途中、押し入れの奥にしまい込んでいたスケッチブックを取り出し、

テーブルに座って何年かぶりにペンを走らせる。

線は少しおぼつかないけれど、何も考えずに描くことがこんなに楽しかったのか、とるなは新鮮な驚きを覚える。


「るなさん、すごく楽しそうですね」

明人の言葉に、るなは頬を赤らめながら「うん、なんだか今日は、全部が“楽しい”です」と素直に答えた。


日が傾き始めても、その勢いはなかなか収まらなかった。

部屋のあちこちを片づけたり、模様替えをしたり。

ふと、窓の外を見ると西日がカーテンの隙間から差し込み、床にやわらかな明かりを落としている。

その光の移ろいが、今日という日の終わりを少しずつ告げていた。


やがて小腹が空き、キッチンに立つ。

冷蔵庫から果物を取り出し、手早くカットしながら、「おやつどうぞ」と明人に声をかけた。

ふたりでテーブルを挟み、小さなグラスの中で氷がカラリと音を立てる。

普段よりちょっとだけ弾んだ会話が続いて、るなは“このままずっと動いていたい”ような気持ちに包まれていた。


日差しが柔らかく部屋に満ち、窓辺には薄い影がゆらめいている。

こんな風に、理由もなく高揚して、そしてどこかで安心している自分が、少し不思議に思えた。


(明日はどんな日になるだろう――)

そんな予感さえ、今日はどこか明るくて軽やかだった。

高揚感がまた戻ってきたような、そんな午後。

ふだんなら疲れてしまうはずの小さな模様替えやおやつの時間さえ、今日は全部が“楽しい”と感じられた一日でした。

この波がどんなふうに収まっていくのか――ぜひ、次回も見守っていただけたら嬉しいです。

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