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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで
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【第97話:昼下がりの心、またふわりと】

昼食を終えた後の昼下がり。

るなの心にも、再び“ふわり”とした軽やかさが戻ってきます。

何気ない外の景色や、歩く感覚が、少しずつ日常を彩っていく。

そんな午後の高揚を、静かに描いてみました。

【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(18話目)


昼食を終え、るなはそっと椅子から立ち上がった。食器の片付けをしながら、窓の向こうの光をぼんやりと眺める。青空が一面に広がり、レースのカーテンが風に揺れている。

さっきまでの静けさが、どこか遠ざかっていくようだった。


「……少し、お散歩に行ってもいいですか」

思わず口にした言葉に、明人は静かに頷く。

「はい。無理のない範囲で、ご一緒します」

その言葉に、るなは胸の奥がふわっと温かくなるのを感じた。


午前中は穏やかな気持ちで過ごしていたはずなのに、今はなぜだか身体の内側から“動きたい”という衝動が湧き上がっていた。

片付けを終えると、るなは帽子と薄手のカーディガンを手に取り、玄関へと向かう。


「準備できました」

そう小さく声をかけると、明人が玄関で待ってくれていた。

二人で並んで外に出ると、陽射しは思ったよりもまぶしくて、足元までしっかりと熱が伝わってきた。


「今日は、少し遠回りをしてみましょうか」

明人がそっと提案する。

るなはうなずき、少し早足になって歩き出す。


頭の中は、軽やかな思考でいっぱいだった。

“このままどこまでも歩いて行けそう”

そんな風に思うのは、いつぶりだろう。


公園までの道のり、るなは明人とことさらに言葉を交わすわけでもなく、ただ並んで歩く。けれど、その沈黙すら、今は心地よく感じられる。


途中、花壇の小さな花や、ゆるやかに流れる雲に目をとめては、その一つひとつに静かな感動があった。

「……やっぱり、外の空気はいいですね」

るなの呟きに、明人は「ええ」と短く頷く。


ベンチに腰かけてひと息つくと、通り抜ける風が頬をやさしく撫でていく。

るなは両手を膝の上に重ね、空を見上げた。遠くから聞こえてくる子どもたちの笑い声や、自転車のベル、通り過ぎる犬の足音――普段は気にならない生活の音が、今日はひとつずつ心に溶け込んでいく。


「また、こうして外に出たいな……」

るながぽつりとこぼすと、明人は「いつでも、どうぞ」と静かに答える。


昼下がりの道を歩くうちに、るなの心はふたたび“浮かぶような明るさ”に包まれていく。

昨日までの落ち着きとは違う、わけもなく元気があふれてくるような、不思議な高揚感。


帰り道、軽やかな足取りで家路につくるなは、「また歩きたい」と、胸の奥で小さな願いを灯していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

今日のるなは、ほんの少し遠くまで歩くことができました。

小さな高揚の波とともに、日常の景色が少しずつ色づいていきます。

また次回も、ふたりの穏やかな午後をお届けできれば嬉しいです。

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