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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで
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【第96話:ほぐれていく心、青空の下で】

昨日までの高揚感がゆっくりと落ち着き、朝の静けさが心を包みます。

少しずつ、現実に足をつけ直していく“ほぐれた”時間――。

今日は、春の光のもとで迎える、穏やかな昼前までを描きました。

【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(17話目)


朝食を終えたあと、るなはカップの底に残ったコーヒーを眺めていた。

ほんの少し苦味が残る香りと、食器を片付ける明人の動き。

部屋の空気は穏やかで、静かな朝の余韻が漂っている。


「……今日は、洗濯でもしようかな」 そうつぶやくと、明人が優しく微笑んだ。 「無理せずに、できることからで大丈夫ですよ」


るなは頷き、静かに立ち上がる。

窓辺のカーテン越しに差す光が、リビングの床に淡く広がっている。

ベランダを開けると、やわらかな春の風がふわりと頬を撫でていった。


洗濯物を一枚ずつ干していく。 どこか“特別なこと”をしているわけじゃないのに、

手のひらに感じる湿り気や、衣服の重さが、現実をきちんと引き寄せてくれる。


「今日はいい天気ですね」 明人が声をかけると、るなはベランダ越しに小さく笑う。 「うん……空が、きれい」


ほんの少し前まで“どこか浮いている”ような心が、

いまは少しずつ“重さ”を取り戻している。

その重さは決して悪いものじゃなく、地に足がついている安心感だった。


部屋に戻ると、陽のあたる場所にソファを引き寄せて、しばらく本をめくる。

読んでいるのは、去年の春に読みかけていた物語。

集中しきれないままページをめくるが、不思議と焦りはなかった。


「お昼はどうしましょうか?」 明人の問いに、るなは「うーん……」と考え込む。 「久しぶりに、サンドイッチでも作ろうかな」 「じゃあ、お手伝いします」 台所に並んで立つふたり。

レタスを洗い、パンに具材を挟む。その一つ一つの作業が、今日の穏やかさを静かに彩っていく。


ふと、るなは明人を見上げてつぶやいた。 「……昨日より、なんだか呼吸がしやすいです」 「波は、少しずつ静かになっていきますよ」 その言葉に、るなはゆっくりと息を吸い込み、小さく頷いた。


サンドイッチをお皿に並べて、窓辺のテーブルに運ぶ。 外にはまだ雲が少し残っていたけれど、確かに青空が広がっている。 一口食べてみて、味がちゃんと分かることに、るなは驚き、そして静かに笑う。


「今日も、きっと大丈夫」 そんな小さな予感が、心の奥で優しく膨らんでいった。

ここ数日の“ふわり”とした浮遊感が、ようやく“地に足のつく安心”へと変わっていきます。

特別なことはなくても、生活のひとコマひとコマが、確かな実感と優しさに満ちていました。

また明日も、小さな変化と心の揺れを大切に綴っていきます。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。

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