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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで
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【第94話:眠れないまま、夜が静かに】

眠れないまま過ぎていく夜。

静かな灯りの中で、ひとりきりの時間に心がふわりと揺れます。

軽躁の2日目の終わり――るなの中で、ほんの少しずつ変化が育っています。

【第6章】こころ、ふわりと浮かんで


寝室の明かりはすでに落とされていた。

カーテン越しに差し込む街灯の淡い光が、天井にかすかな影を映している。

るなはベッドに横になったまま、目を閉じることもできず、その光の揺らぎをじっと見つめていた。


眠れない。

眠ろうとしても、心がどこかざわついている。

今日一日の出来事は、穏やかだったはずなのに。

むしろ、あたたかな時間に包まれていたはずなのに。

なぜか、胸の奥にだけ、小さな泡のような不安が残っていた。


布団の中は、心地よいぬくもりに満ちている。

身体はもう十分に疲れているはずなのに、心だけがゆっくりと浮いたまま、着地できないままでいる。


(……なんでだろう)


自分でも理由はわからなかった。

けれど、あの静かな食卓や、明人の穏やかな声、書斎で感じた記憶の温度が、次々に思い出されては、胸の中でそっと波紋を広げていく。


遠くで、小さく食器が触れ合う音がした。

きっと、明人がリビングで後片付けをしているのだろう。

一緒にいた時間のあと、ああして少しだけ距離を取ってくれている。

その静かな気配が、逆にありがたかった。


「……ありがたいな」


小さく、唇の内側だけでつぶやく。

誰に届くわけでもない、ひとりごと。

けれど、声に出してみたその瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。


(今日は、大丈夫だった)


そう思う。

泣かなかった。崩れなかった。

ただ、それでも、いつかまた“揺れる日”が来るかもしれないことは、どこかでわかっていた。


「……強くなれたのかな」


そんな言葉が、静かに胸の奥から湧きあがる。

答えは出ない。けれど、答えが出ないことを、そのまま受け止められる自分が、今は確かにいた。


掛け布団の端をそっと握る。

その手のひらに感じる温度が、現実の輪郭をそっと思い出させてくれる。

ぬくもりの中に身を預けながら、るなはもう一度まぶたを閉じた。

目を閉じると、今日という日が、まるで遠い出来事のように思えた。

それでも、心の奥には、確かに“やわらかな手触り”が残っている。


月明かりが、カーテン越しにほのかに滲んでいた。

完全に眠れるわけではなくても、それでも、この夜を越えられる気がした。

眠れないまま過ごす夜――それでも、誰かの気配がそばにあるだけで、

少しだけ心が落ち着くことがあります。

次話では、そんな微細な感情の揺れをもう少し掘り下げていけたらと思います。

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