【第83話:軽やかに動く午後】
午後の光は、気持ちまで軽くしてくれるようです。
今日は“外に出る”という、ほんの小さな一歩をふたりで踏み出してみました。
静かな日常のなかで、ほんの少しずつ変わっていく心の揺らぎを、そっと描いています。
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(4話目)
午後になっても、るなの心の中にはまだ「軽やかさ」が残っていた。
午前中に洗濯を済ませ、部屋の片付けも思いのほか手際よく進んだ。
ふだんは動き出すまでに時間がかかるのに、今日は次々と“やること”が思い浮かぶ。
「午後はどうしましょうか」
リビングでカレンダーを見ながら、るなはふと声をかけた。
「何か外に出る用事があれば、付き添いますよ」と彼が言うと、
「そうだね……買い物とか、散歩とか。外も、行ってみようかな」
自分からそんなふうに提案できるのは、ほんとうに久しぶりだった。
春の光が差し込む廊下を、軽やかに歩く。
コートを羽織る手も、なぜかスムーズだった。
「すぐに戻ってきてもいいし、ちょっとだけでも外の空気を吸いたくて」
彼にそう伝えると、「無理しなくて大丈夫ですよ」とやわらかく返ってきた。
それが嬉しくて、るなは「うん」と頷く。
玄関の扉を開けると、街路樹の葉が優しく揺れていた。
まだ少しひんやりしているけれど、空気は澄んでいる。
「……意外と、気持ちいいね」
そう呟きながら、るなはゆっくりと歩き出す。
ほんの近所のスーパーまで。
買うものも特に決まっていないのに、カゴを手にするだけで“外に出た”実感が胸に残る。
店内の人の流れも、今日はなぜか怖くない。
「なにか食べたいものは?」
「うーん……パンと、あと果物でも。おやつも少し」
そうやって言葉がぽんぽん出てくる自分に、るな自身が小さく驚いていた。
帰り道、手には小さな袋。
彼が「お疲れさまでした」とそっと微笑む。
「……今日は、頑張れた気がする」
ほんのささいなことだけど、るなはそう感じていた。
部屋に戻ると、窓からは午後の日差しが差し込んでいた。
「お茶にしましょうか」
「うん、そうだね。せっかくだから、買ったおやつも一緒に」
ソファに座ると、体の芯からじわっと満たされるような感覚があった。
「また、こうして外に出たいな」
ふと思わず口にした言葉に、彼がやさしくうなずく。
その返事だけで、るなは心の奥に小さな灯がともるのを感じていた。
——今日は、心も体も、少しだけ遠くまで歩けた一日だった。
外の空気を吸って、小さな買い物をして。
それだけで一日が少しだけ誇らしく思える日もあります。
どんな小さな一歩も、その人にとっては大きな変化かもしれません。
次回もまた、ゆっくりと、心の動きを描いていきます。
明日も0:00にそっと更新しますので、よかったらまた覗きにきてください。
いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。




