【第82話:満ちていく午前の光】
今日のるなは、止まらない気持ちに素直になっています。
高揚と、ちょっとした自信。
軽躁の光の中で、“できること”が自然に広がっていく――
そんな午前の空気を、大切に描きました。
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(3話目)
掃除機の音が静かに廊下をすべっていく。
るなはリビングのラグを軽くめくりながら、ていねいに埃を集めていた。
「なんだか今日は、細かいところまで気になるな……」
小さく呟きつつ、クッションも丁寧に整える。
頭の中はクリアで、考えが次々と浮かんでくる。
そのすべてに、手が追いついている感覚があった。
窓際の花瓶に目をやると、昨日よりも花の色が鮮やかに見えた。
「水を替えようかな」
思い立つとすぐ、キッチンへ向かう。
ガラスのコップを洗いながら、ふと唇が小さく動く。
知らない間に、鼻歌がこぼれていた。
「るなさん、調子が良さそうですね」
彼が廊下からそっと声をかけてくる。
るなはその声に振り返り、少しだけ胸を張った。
「今日は何でもできそうな気がしてて……。あ、でも、やりすぎて疲れたら教えてくださいね」
「もちろんです。無理はしないでください」
彼はいつもと同じやさしさで答える。
でも、そのまなざしが少しだけ、見守るような色に変わったのを、るなは感じていた。
掃除がひと段落すると、窓の外は少し明るくなってきていた。
「ねえ、午後になったら、ちょっとだけ散歩に行きませんか?」
るながそう提案すると、彼は驚いたように目を見開く。
「もちろん、お付き合いしますよ」
「うん。……今日は、動いていたいんです」
るな自身でも、この“動きたい”という衝動がどこから来るのか、うまく説明できなかった。
けれど、それが自然なことに思えた。
ふと、朝に飲んだコーヒーのカップを片づけるのを忘れていたことに気づく。
「あっ……これ、まだ洗ってなかった」
「僕がやりますよ」
「いいえ、今日は自分でやりたいんです」
そう言って流しに向かう背中は、少しだけ誇らしげだった。
キッチンの窓から差し込む光が、いつもよりまぶしく感じる。
るなはその明るさの中で、両手をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫。今なら、何でもできる気がする」
ふわりとした高揚感は、まだるなの心の中で続いていた。
やりたいことが、止まらない。
それでも、今日はまだ午前。
満ちていく光の中で、るなは小さく深呼吸をした。
小さな変化が、ゆっくりと心を動かしていく午前でした。
「今なら何でもできる気がする」――
それは、時に危うさを含みつつも、きっと大切な一歩でもあります。
このあとも、るなの軽やかな日々とその揺らぎを、ていねいに見守っていきます。
明日もまた、0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。




