【第81話:ゆらぎの午前】
少しだけ、軽やかに目覚めた朝。
心がふわりと浮かぶとき、世界は昨日と同じ景色でも、どこか違って見える気がします。
今日のるなは、そんな“やわらかなゆらぎ”の中にいます。
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(2話目)
朝食の皿を片づけたあと、るなはソファに腰を下ろした。
姿勢は少し崩れていたけれど、どこか気分は軽やかで、ふわふわと宙に浮いたままのような感覚があった。
「コーヒー、もう少しだけいただいてもいいですか?」
るながそう尋ねると、彼はすぐに「もちろん」と返した。
キッチンでカップに注がれる音を聞きながら、るなは膝の上で指をくるくると遊ばせていた。
今朝は、胸の奥の重みが少ない。
いや、まったくないわけではないけれど、肌に触れる空気すら、いつもより軽く感じる。
「どうぞ」
彼がそっとカップを差し出す。
るなはそれを両手で受け取って、笑った。
「ありがとうございます。……あ、ちょっと熱いかも」
カップの縁に唇を近づけた瞬間、くすりと笑って引いた。
その表情は、昨日までの彼女にはなかった柔らかさを帯びていた。
「今日は、何かしましょうか。たとえば……お洗濯とか。あ、でも天気がどうだろう……」
言葉が止まらない。
浮かぶままに話してしまう自分に、るなは途中で小さく笑った。
普段なら口に出せないような思考が、まるであふれ出すように滑らかにこぼれていく。
「少し、話しすぎてますか?」
気づいたときには、彼の隣にすっと座っていた。
彼は首を横に振ると、穏やかに言った。
「いいえ。るなさんが話してくれるの、嬉しいです」
「……よかった」
小さくつぶやいて、カップをそっと膝の上に置く。
窓の外を見ると、曇り空の向こうに、少しだけ陽が差していた。
その光に包まれて、こころがふわりと浮かんでいく気がした。
「お掃除も、少ししておきましょうか。昨日あまりできなかったし……」
軽やかに言いながら、立ち上がった。
思えば、こうして“次にやること”が自然と浮かんでくるのは、久しぶりだった。
ふたり分のコップを片づけるとき、ふと手が触れ合った。
その瞬間、るなは顔をあげた。
彼も驚いたように目を合わせてきて、そしてゆるく笑った。
その笑みに、なぜか胸の奥がじんわりと温かくなった。
“今のわたし、たぶん大丈夫”
そんな予感が、そっと背中を押していた。
明日にはまた沈むかもしれない。
でも、それでも今日のるなは、確かにここに在った。
この“揺らぎ”もまた、るなの一部なのだと思います。
次回も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
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