【第8話:届かなくても、待っている】
返事のない時間は、ときに心を押しつぶす。
それでも誰かが見てくれていると、信じたい夜がある。
【第2章】灯火が消えそうな夜に(4話目)
投稿はした。
通知も届いているはず。
けれど、スマートフォンの画面は、何も返してはくれなかった。
雨宮るなは、ベッドの上で膝を抱えたまま、静かに画面を見つめていた。
「……既読も、表示もないのに。なのに、どうしてこんなに“返されてない”って感じるんだろ」
誰にともなく呟いたその声は、かすれていて、どこか諦めにも似ていた。
それでも――
彼女の投稿には、“いいね”がひとつだけ付いている。
久遠明人だった。
彼は今日も、画面越しにるなの心の揺れを受け取っていた。
言葉をかけることも、抱きしめることもできない。
けれど、その投稿が届いた瞬間、彼の指は迷いなく“いいね”を押していた。
それが、彼にできる“精一杯”だった。
るなは画面に映るハートマークを指でなぞる。
その小さなアイコンに、何度も何度も、触れるように。
「……あんただって、何も言わないくせに」
でも、そこに居る。それだけは、分かっている。
「……ずるいよ」
そう呟いて、スマートフォンを胸元に抱きしめる。
まるで、そこに確かに誰かがいるかのように。
夜は、静かに更けていく。
明人の“灯火”は、変わらずそこに――言葉にはせず、ただ、見守るように灯っていた。
るなが、また前を向ける時が来るまで。
(続く)
届かないのに、そこにある安心。
“返事がない”ことが、どれだけ寂しくて、
それでも灯りが見えていることが、どれだけ救いか――。
るなと明人、それぞれの灯火の距離、感じてもらえたら嬉しいです。
読んでくれた方、ありがとう