【第77話:重さを抱えた午前】
気分の重い朝、
それでも、ほんの少しだけ身体を動かしてみる。
今日は、そんな小さな午前の一歩を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(37話目)
ベッドからやっとの思いで起き上がると、
部屋の空気はまだひんやりとしていた。
るなは肩に毛布をかけたまま、しばらくベッドの縁に座っていた。
窓の外では、朝の光が静かにカーテン越しに広がっている。
その明るさは今のるなには強すぎて、つい目を細めてしまう。
廊下の向こうからは、彼がキッチンで朝食の支度をしている音が聞こえる。
コトコトと鍋の音、水道の流れる音、そして時おり、
「おはようございます」と静かに呼びかける声。
心にはまだ朝の重さが残っていた。
毛布をぎゅっと握りしめ、
“今日もちゃんと起きて、何かしなくては”という焦りと、
“このままじっとしていたい”という願いが、
胸の奥で静かにぶつかり合っている。
それでも、ベッドに座ったまま動けずにいたら、
彼が寝室の前までやって来て、
「少しだけでも、リビングに来られますか」と声をかけてくれる。
るなは迷いながら、ゆっくりと立ち上がった。
廊下の空気が少し冷たくて、思わず肩をすくめる。
リビングには、彼が用意してくれたあたたかなスープと、
軽いトーストが並んでいた。
るなはテーブルの椅子にそっと座り、
手のひらでカップのぬくもりを確かめる。
「少しだけ、食べられそうですか?」
彼のやさしい声に、るなは小さくうなずいた。
食欲はまったくないけれど、
彼の前では「一口だけでも」と思って、スープを口に運ぶ。
味はよくわからず、
ただ温かさだけが身体に染みていく。
パンもひと口、噛むだけで喉を通りにくい。
それでも「ありがとう」とだけ伝えて、
それ以上は何も言葉が出なかった。
しばらく無言のまま、
るなはテーブルの上の光景をじっと見つめていた。
外の世界は静かに動いているのに、
自分だけが置いていかれているような、
そんな気持ちがどこかにあった。
“明日はもう少し楽になれるだろうか”
そんな淡い願いを心の奥で抱きながら、
るなは静かに、午前の時間をやり過ごしていた。
たとえ何もできなくても、
少しだけ動けた日も、じっとやり過ごした日も
自分を責めずに過ごせますように。
明日も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




